4主BadEnd前提。シークの谷後。 死んだ。 喰われて、魂はソウルイーターの糧になる。 戻ることなどないと思っていた。唯一の親友の元にも、あの、海にも。 「嘘だろ……?」 「テッド……?」 ぼんやりとした、青と白の霧が渦巻くような空間。 お互い姿はぼやけていて見えないが、たしかにそこに存在するのが分かる。 「本当にテッドだ……ここどこ?」 「俺に聞くなよ」 「だって、俺はきっと死んだだろうし、ここは……罰にしては綺麗すぎる」 テッドは顔を歪めた。 「ラズロ……」 「テッド、俺はどうなったの?」 百五十年ほど前の、擦れてしまった記憶。海に沈んだ英雄。 ラズロはあの時のままだ。まったく変わらない。 「……死んだ、と思う、俺は確認せずに旅に出たから」 「そっか」 あっさりとした返事だった。自分は死んでいるのだと伝えられたのに。 長くない命と分かりながら自ら命を縮めていたラズロにとっては驚くことではないのかもしれない。死ぬと分かっていたのだから。 どうしようもない思いが沸き上がり、テッドは奥歯を噛み締める。どこまでも真っ直ぐで、生きたいと言うくせに死を覚悟して進む小さな子供。 馬鹿な奴だ、と。同時にその生き方に、笑顔に惹かれた。 呪いの紋章を宿し、強く生きる小さな子供に、希望を見た。 ぼやけたラズロが揺らぎ消える。しかし消えたのは一瞬で再びゆらゆらとその姿は現れた。 テッドにはラズロがどんな動作をしているのか分からない。しかし見慣れた癖、首を傾げる様子が浮かぶ声でラズロはぽつりと呟く。 「アルド?」 「は?」 テッドも思わず首を傾げる。傾げてから、昔もよくこうしてラズロの発言に首を傾げたものだと小さく笑った。 その笑い声を聞いてラズロは目を見開く。もちろんテッドの姿は見えない。テッドにもラズロの姿は見えない。 ラズロは笑みを浮かべ、テッドの変化を喜んだ。伝えたら喧嘩になりそうなので伝えることはしない。 しかし、笑みはふっと消えた。 「テッド、君は……」 言い掛けて、止める。言わなくていい気がしたからだ。 「なんだよ」 気にならせておいて、何も言わない。勝手に自分の中で完結する。ラズロの良いとも悪いとも言いきれない癖だ。 「連れて帰って、帰ってきてくれたから、いい」 「何を」 「星を」 ラズロは笑う。溢れる喜びも、浮かべた笑顔も、テッドに届くことはない。 そして意味が分からず首を傾げているテッドの姿も、ラズロに分かるはずがなかった。 テッドは、星を連れて帰ってきた。 「ビッキーとジーンさんはいないけど、他は全員帰ってきたよ」 「お前本当にラズロなんだな……」 相変わらず訳が変わらないとテッドは溜息を吐く。安心をするのと同時に悲しかった。本当に百五十年前、死んだときのままのラズロなのだ。 「たまにね、ぼんやり見えたことがあったんだ、今気づいたんだけど」 「俺の話し聞いてるか?」 「うん、聞いてるよ?」 再び溜息を吐けば、ラズロがくすくすと笑う。この空間では声と気配、微かな色だけが互いに存在を伝える。しかしその少ない存在の証さえも青と白の霧で揺らぎ曖昧になっていた。 「……で、何だよ」 「うん? あぁ……今テッドと話すまでは意識が無かった、というか死んでたんだけど」 テッドが無意識に眉間に皺を寄せる。姿は見えずともラズロにとっては昨日のようなことなのですぐにテッドの表情が分かった。テッドは、ラズロが死という言葉を口にするのを嫌っていたから。ラズロ以外、誰も知らない事だ。 「そんな顔しないでよ」 「割り切れないものがあるんだよ」 「変わったね」 「お前は変わらないな」 二人で声を上げて笑う。お互いその声に驚いて思わず相手がいるであろう場所を見つめた。 「なんか……驚いたな」 「お前がそんな風に笑うのは知らなかったな、いつも笑ってたけど」 「そうだね……、全部終わったから、皆いるから」 二人いないけど。と呟くラズロの姿が青と白の霧に飲み込まれる。 ふわりと髪が揺れる、冷たい風は、海の風だ。 「ラズロ」 テッド、アルド、おかえり。 最後に、懐かしい船、目に痛いほどの青を見た気がした。 テッドはソウルイーターに。海に生きたテッドは4主の元に。 |