沈んだ人生きる人前提のような。









懐かしい人だ。昔、まだ小さな子供だった頃に会った人。
自分の名を忘れたと笑った悲しい人が、目の前にいた。

「やぁ?」
「なんで疑問系なんですか」

グレミオとはぐれ裏路地に連れ込まれた自分を助けてくれた人。
風になびく灰茶の髪も、空とも湖とも違う青の目も、全てがそのままだ。
解放軍へ参加しようという人々に交じり城へと来たその人の左手からは、強い紋章の気配がした。

「あの時は……すみませんでした」
「? 通行の邪魔だったから声かけたら殴られて、殴り返しただけだから」

助けたつもりはない、と遠回しに言われる。それが優しさなのか突き放しているのかはわからない。
そうなったからこうした。彼からは欲や目的といったものを感じられない。自分達とは違う、別次元の者のようだ。

「何の目的でここに?」
「見届けに来た」
「何を?」

言葉が途切れた。目の前の人は曖昧に笑う。
どこか寂しそうな目。感情が、はじめて見えた気がした。

「仲間の、大切なものを」
「仲間……?」

静かに頷く。船から降りた彼を捕まえ城の入り口の脇へと引っ張りだした自分に対して視線を感じる。
雰囲気的にいじめてるように見えるのだろうか。目の前の人は何となく弱々しく見える。
困ったような顔で笑う彼を壁に追い詰めている自分。自分が解放軍のリーダーでなければ怪しい光景だろう。今だけは自分の立場に感謝した。

「昔のね、大切な仲間なんだ、頼まれたわけじゃないんだけど」
「それは、ここにいる人?」
「いない、でも大切なものが、ここにある」

昔、と見た目からは少しおかしな言葉。しかし彼の姿は自分の幼い記憶のままだ。
追求してはいけない気がしてその言葉については何も言わない。

「敵ですか」
「場合によっては」

にこりと影も無く彼は笑いながら言った。記憶のままの笑顔。彼からは何も感じない。好意も嫌悪も。
そこに確かに存在するのに存在していないようだ。

「こちらの利益は?」
「掃除洗濯料理家事全般、戦闘に簡単な船の整備と操縦、魔法はちょっと苦手かも」
「不利益は?」
「君を拉致監禁するかもしれない、もしくは首が飛ぶかも」

さらりと言われた言葉を理解するのに時間がかかった。後からざわざわと動揺の声が聞こえる。

「……場合、とは?」
「君がテッドを裏切らない限り私は味方だよ」
「え?」

よろしくね。と告げられた言葉にただ頷くしかなかった。
正直完全に混乱していた。ただ解放軍軍主になってからの癖で顔には絶対に出さない。
どうすればいい? と首を傾げて聞いてくる人を見ていると頭が痛くなってくる。

「貴方の、名前は?」
「ラズロだよ」

無邪気な笑顔で笑う彼からは、やはり何も感じなかった。


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