「ペディキュアまでしてたのか」
「気を抜けないからね、というか君がペディキュアって言葉を知ってたことに私は驚いてる」
除光液を染み込ませたコットンで丁寧に足の爪を拭うラズロにテッドが声をかける。
六畳一間、座布団に退屈そうに座った姿は拗ねている子供のようだ。実際拗ねている。
「ティルだよ、爪が割れたことがあって保護で、その時知った」
「あぁ……ティル、ね」
たった一言、そういうとラズロは黙ってしまう。ラズロはテッドがラズロと二人でいる時にティルの話題を出されるのを嫌う。
多少なら気にしないがやはりおもしろくないのだろう。その感情を嫉妬だと分かっていてテッドも煽る。
「なんだ、嫉妬か?」
「……」
いまさら睨み付けられたくらいでテッドは怯まない。それが照れだと知っている。
ラズロとティルの仲は悪くない。むしろ良い。
テッドの知らないところでいつのまにか意気投合し、気が付いた時には二人で遊びに行くほど仲良くなっていた。
それに不満を言えば、ティルには僕が誰と仲が良くたっていいじゃない。ラズロには、君とティルなんか親友じゃないかと言われる始末。
恋人を親友にとられるのは、親友を恋人にとられるのは不満もあるし、正直寂しい。
しかしテッドはその関係に不快感は抱いていない。むしろ好ましく思っている。
どんなにお互いに仲が良くても、二人はテッドを決して邪険にしない。
「違うのか?」
「もう、なんでそう意地が悪いかな」
「んー、今日一日ほっとかれたから?」
せっかくの休みだったのにと言えばラズロは顔を歪める。仕方ないだろうとそっぽを向かれてしまった。
「フレアのエスコートだったんだ」
なんで孤児院育ちのお前が大手企業の社長の娘をエスコートなんてしてるんだ、とは言わない。
テッドはラズロの過去を知らない。ラズロもテッドの過去を知らない。お互い様だ。
「分かってるよ、だからそんなに気合い入れたんだろ?」
その色好きだもんな、相手が。と笑うテッドにラズロはさらに顔を歪めた。
それから、一つ溜息を吐いてから口を開く。
「君こそ嫉妬してるじゃないか」
「嫉妬してるに決まってるだろ?」
フレア、という名の女性のことをテッドも知っている。ふわふわとした金色の髪とラズロより明るい青の瞳。顔立ちは整っていて文句無しの美人だ。
別にフレアとラズロがどうこうというわけではないがやはり気に入らない。
「愛してるのは君だけだよ?」
「俺だって愛してるのはラズロだけだ」
「……」
「自分で言っといて照れるなよ」
うるさい、と使い終わったコットンが投げ付けられる。
胸に当たり音もなく落ちたそれをテッドは拾って投げる。コットンは吸い込まれるかのようにごみ箱の中へと落ちた。
「くだらないこと言ってないで足でも揉んでよ」
疲れた、と適当に広げた布団に寝転がるラズロに、そんなことで疲れる奴かよと言いながらもテッドはたまには労ってやるかと近づく。
「俺は青が好きだな」
テッドの唐突な言葉に、ラズロはテッドの服は確かに青系が多いなと思う。
「お前の目の色だから」
「私と会う前から青だったじゃないか」
「空気読めよ」
ラズロはきょとん、と目の前のテッドに仰向けのまま首を傾げる。
そうしてしばらくしてから小さく、あぁ、と呟いた。
「私はオレンジが好きだな」
「なんで」
テッドは、言ってしまえばラズロの少しでも喜ぶような反応が欲しかった。なんとなくラズロの空気の読み方は違う気がしたし、続く言葉なんて分かり切っている。が、テッドはラズロを見下ろしながら問う。
「君の色だから」
続いた言葉は予測していた通りのものだったが、テッドがラズロ以外にはみっともなくて見せられない顔になるまで三秒もかからなかった。










なんだこのばかっぷる。

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