テッドinソウルイーターな話。テッドの体を借りて(奪って)表に出てくるソウルイーターの話。
ソウルイーターのイメージ崩壊注意。










「テッド?」
ノックをしても返事がない。人を拒絶するくせに変なところで律儀な彼が返事をしないなんてめずらしい。
(寝てるのかな……)
入るよ、と一言声をかけてからドアを開く。ベッドの上であぐらをかいている人物と目が合った。
琥珀色の目。いつも通りの外見。しかし瞳の奥に闇が見えた。



「……誰?」
「なんだよリーダー、俺が分からないのか? 自分で拾っておいて酷い奴だな」
「誰だと聞いている、斬るぞ」
「やめとけ、こいつが死ぬだけだ」
テッドはにやにやと笑いながら自分を指差す。不愉快な顔だとラズロは思ったが、口に出すようなことはしない。
訳の分からない状態に無意識に腰に差した双剣に手がいく。それを嘲笑うかのようにテッドは笑った。
「なんだびびってんのか? 別にとって喰いはしねぇよ」
当たり前だ、と心の中で呟く。ラズロの命は罰の紋章に大きく削られている。いつ死ぬか分からない状態で日々を生きているというのに、こんなところで死ねない。
ラズロは脅しのような言葉に強く睨むことで返す。しかしそんなこと気にもならないといった風に、テッドの姿をしたテッドでないものは右手の手袋を取ると床に投げ捨てた。
勢いもなくぽすりと床に落ちる手袋。そして手袋の下に巻かれた、風呂に入る時でさえ取りたがらなかった包帯を解き始めた。
解くといってもそれは乱雑な動作で、無理矢理引っ張るといったほうが正しい。
どうやら少し絡まったようで眉間に皺が寄る。その表情ならばテッドなのに、とラズロはどこか遠いことのように考える。行動はラズロの知るテッドではありえないことだが、姿形はテッド以外の何者でもない。
「あー……おい罰の宿主、解け」
「え、俺?」
「他に誰がいる、同じ真の紋章が二つもあってたまるか」
「え、うん」
思わず頷き、同時に後悔する。
仕方なく、ほら、と右手を差し出して催促してくるその人にラズロは近づく。包帯の隙間から、紋章が見えた。
(鎌……?)
「……器用だな」
昔は小間使いなんてものをやっていたラズロは基本的に器用だ。くるくると丸めながら包帯を取っていけば目の前の人が感動の声を上げる。こんなことでとラズロは思うが、テッドの姿をした誰かの声には純粋な好意が滲み、瞳はまるで子供のようにきらきらとしている。しかしどこまでも暗い瞳だ。隠しきれない闇がある。
「ん」
「あるのとないのではやっぱり違うな、楽だ」
「で、本当に誰なの君」
何も覆うものがなくなった右手を嬉しそうに振るテッドによく似た別人を見ながら、ラズロは先のばしにされた質問の答えを問う。純粋な瞳で、知りたいのか? と問い掛けてくるその人に、ラズロは完全に不信感を消されてしまった。
「あーもう、知りたい、知りたいです」
「そうか、これだ」
ベッドに腰を下ろした途端にずいっと目の前に右手の甲が突き出される。そこには鎌のような紋章が存在していた。
「紋章……?」
「世界を統べる真の紋章の内の一つ、ソウルイーターだ」
何言ってんのこの人、とあからさまに面倒くさそうな視線をラズロは自分を真の紋章で、ソウルイーターだと名乗ったテッドによく似た別人に向ける。
面倒くさいと思っても疑わなかったのはその瞳の奥の闇からか。
「なんだ、紋章に意思があることがおかしいか?」
「いえ……そうる、いーたー……? さんがなんでこんなことしてるんですか」
「今の宿主は人を避け過ぎだ、これじゃあうまい食事ができない」
左手で右手を撫でながらソウルイーターは呟く。甘いくせに随分と殺伐とした声だ。
「食事?」
「魂、宿主が好む者の魂ほどうまい」
自然と、ラズロは顔の筋肉が引きつるのが分かった。
「…止めてくれ、お前に仲間を無差別に喰われたらたまらない」
「じゃあ罰の宿主、お前が喰いたい」
取引だ、とソウルイーターは身を乗り出し顔を近づけ無邪気に笑う。テッドの顔でそんな風に笑わないでくれとラズロは心の底から思った、ほだされてしまいそうだ。
「駄目だ」
「なんで」
「まだやることがある」
そんなこと、紋章には関係ないと肩を掴まれそのまま後ろに押し倒された。
ベッドの上だが長さが足りず頭が半分以上ベッドの外に出る。必然的に反りあらわになった首に手を掛けられた。
「待て、最後まで待て、俺の最後、罰が俺を喰い殺す前にお前が掠め取ればいい、それまで待て」
「今は? あんなところにいて俺は何年も食事をしてない、最近食ったのは魔物ばかりだ」
「今はこれをやる」
ラズロは、上にのしかかった状態の少年の胸に小さな紙袋を押しつけた。まだあたたかいそれは本当ならばテッドにやろうと思っていたものだ。
「なんだ」
首から手を引き、押し付けられたそれをソウルイーターは受け取る。誰かに見られたら色々な意味で誤解されそうな格好だなと首を傾げる少年を見上げながらラズロは思った。

「パムさん新作饅頭、うまいぞ」
俺は大好きだと言いながら、ラズロは体を起こした。


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