「あれ、テッドだ」 「え?」 道路を挟んで向こう側。見慣れた蜂蜜色の髪が見えた。 「テッドー! てーっど!」 ティルが少し大きな声で呼べば広くない道路、すぐに声は届く。 反射的に声に反応したテッドは仲良く並ぶティルとリオウを見てあからさまに顔を歪めた。 「酷いなー親友に向かってそんな顔ー、今帰り? 暇なら……」 「ティルさん」 暇なら家に遊びにこないか、と誘う前にリオウに肩からかけた鞄を引かれ言葉が途切れる。 ん、と何とも投げやりに伝える視線を追ってテッドを見る。と、テッドの奥に揺れる灰茶の髪が見えた。 「あれデート? ごめん空気読まなくて」 「ちげぇよ馬鹿」 眉間に皺を寄せて即座に否定したテッドの影からひょこりと顔が覗く。肩上で切りそろえられた灰茶の髪に大きな青色の目。顔立ちは幼く、可愛らしい外見だ。 「わぁ」 「僕テッドの本命は年上とか美人系だとばかり思ってたよ」 「お友達?」 まったく違う反応。予期せぬ攻撃を受けたテッドは言葉が出ない。ティルのからかいはいつものことだ、リオウのどことなくいらっとする反応もまだ流せる。 咄嗟に言い返してやろうとしたタイミングで、横からのんきな声が響く。まったく今の状況を気にしてないような声に、テッドは完全に戦意を削られてしまった。 「……ラズロ」 「なにテッド?」 心底不思議そうな顔で首を傾げる同級生、こいつには何を言っても駄目だと分かっている(我が道を行く、ティルやリオウと同じタイプの人間だ)から何も言えない、言いたくない、絶対にややこしくなるとテッドは知っている。 「もー、テッド彼女ができたなら紹介してよ、全力で応援するから!」 「どうみても男だろ、あとお前達にだけは紹介したくない」 天然タラシコンビだ。老若男女、時には動物まで口説き落とす人間に誰が恋人を紹介したがるだろう。 ちなみに今隣に立っている恋人も、ティルやリオウと同類だと無意識のうちに彼に落とされたテッドは知らない。 「遠慮しないでよ、はじめましてティルです! テッドとの馴れ初めは?」 「リオウです、テッドさんって疲れません? 付き合い難いというか」 「えと、ラズロです、テッドとの馴れ初め……? たしかあれは私が体育館の掃除当番で……むっ」 「止めろおまえら!」 何勝手におそらく中心人物であろう自分を置いて話を進めているんだとテッドはラズロの口を手で塞ぎながら叫ぶ。普通じゃない、むしろかっこ悪いであろうラズロとの出会いを二人に知られてはなるまいと手に力をこめる。鼻は覆わず呼吸経路はしっかりと確保していたためラズロの抵抗はなかった。 その前に道路を挟んで会話なんてするなといつものテッドならば言えただろうがティル、リオウ、ラズロを同時に相手にして判断力が狂っている。 鈍らせるのではなく、狂わせる。そこが三人の怖いところだと普段のテッドならば理解しているが、今のテッドはそれどころではない。 「じゃあテッド以外の話ならオッケー? ラズロさん今度お茶しませんかー?」 「ティル!」 「あ、メアド教えてください」 「リオウ!」 「いいよ」 「ラズロ!? ……ッ、ちくしょう俺のだから手出すなよ!」 あ、と言う間もなくテッドがラズロの手を引っ張る。そのままティルとリオウには目もくれず、ずんずんと歩いて行ってしまった。 テッドに引っ張られながらラズロがだいぶ遠くから手を振る。その手に手を振り返しながらティルがぼそりと呟いた。 「やっぱり彼女なんじゃないか……、僕は本命いるから手なんか出さないって……」 「いや、テッドさんが彼女という可能性も……、手を出さない、というかティルさん浮気なんかしたら呪われちゃいますからね」 リオウもラズロに手を振りながら、ティルのどうしようもないと言った声に答える。 「あれでテッドってあれだからね、たしかに彼のほうが身長高かったけど簡単には押し倒されないと思うな……」 「あれですか……ティルさん携帯鳴ってません?」 「ん、あぁ……切れた」 留守電一件あり。 |