「なんで俺に構うんだ」
もう聞き慣れたその問いにラズロは、好きだから、としか答えられなかった。



「…好きだから?」
「…ほっといてくれ、頼むから」
本当に切実そうな声で言われてラズロは困る。そんな悲しそうな辛そうな顔をしなければいいのにと心の中で呟いた。
本当に嫌なら部屋から叩き出せばいい。今のラズロは軍主ではなくただの少年。テッドの上に立つ者ではない。
「好きだから一緒に居たいと思う、だめ?」
「そういうのは女に言ってやれよ、喜ぶ奴なんて山ほどいるだろ」
流石に山ほどは無い、と言い掛けたが、ありえるかもしれないと口を閉じる。自分の立場は理解しているつもりだ。自覚もある。ただ似合わないと思う。
そんなことは絶対に言うなと言われているが、なんで自分なんだろうとラズロは考えるのだ。自信が無いというわけではない。単純に自分の柄ではないと思っている。
誰一人としてそれを完全に肯定してはくれないのだけれど。
「借りは返す、でもそれだけだ」
余計な用には付き合わない、と声には出さず言われた。
ラズロは普段は使わない筋肉を使ってむっとした顔を作る。テッドだけにしかしたことのない表情だ。しかし彼は頷いてくれないとラズロは知っている。
どうしたものかと考え、すぐに複数の答えを出す。一番簡単なのは軍主としての力を使うことだがそれでは意味がない。
「お願い、ね、テッド」
「…断る」
素直に頼むのも、撃沈。
もう一つ出た答え、物理的な力による実力行使は出来ればしたくなかった。
「なんで今日はそんなにしつこいんだよ、いつもなら諦めるのに」
ラズロも流石の冷たさに肩を落とした。が、予想していなかったテッドからの言葉に目を見開く。なんだよ、と気まずそうにテッドは顔をそらした。
嬉しさから自然とゆるむ頬、引き締めようとは思わない。
「嬉しい」
変に言葉を飾るのは苦手だ。だから素直に思ったことを伝える。それでテッドが苦く困ったように笑おうとラズロは気にしない。
なんでしつこいか、なんて。目安箱に入っていた、ほわほわとした緑を纏う青年の手紙の内容に嫉妬したからなんて絶対に言ってやらない。
「何で俺が好きなんだ」
「テッドだから、好き」
君だから好きなんだ、代わりなんていないよ。理由なんてないんだ。それはきっとテッドにとって重たく苦しいものなのだろう。それでも言わずにはいられない。
「人を好きになるにはまず顔を見る、体も見ちゃうよね、でも好きになるのに理由はいらない、好きだと思ったから好き、だめ?」
可愛らしく首を傾げて問えばテッドはさらに困ったように笑う。それが本当に困っているようで。ラズロは内心驚き、微かな罪悪感と痛みを感じたが無視をして、今まで誰にも見せたことのない表情で思い切り笑ってやった。


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