ゆらゆらと意識が揺れる。いつもとは違う目覚めに、士郎は夢心地の中で首を傾げた。普段なら、一度目覚めてしまえば体調が悪くない限りはっきりと目が覚めるというのに。布団の中でこうもどろりと体を横たえているのは久しぶりだなと思う。
 理由は、何となく心当たりがあった。というよりも目覚めない脳でも背に感じるあたたかさは認識できる。すっきりと起きれない原因はこれだ、と体は理解していた。
 士郎がごろりと狭い布団の中で寝返りをうてば鉛色が視界を占める。いくらなんでも近すぎないか。なんでさと士郎は思わず呟いたが寝起きで声は掠れていた。

「アーチャー……」
「……何だ」

 名を呼ぶ声に返ってきた声はやはり士郎と同じように掠れていた。結局こいつは自分の部屋に戻らなかったのかと士郎は考える。
 昨晩の、女性陣たちを主軸とした騒ぎの詳細は割愛するが、男二人、それも天敵と言えるだろう男と同じ布団に潜り込んで熟睡してしまう程度には騒がしく、それはきっと楽しい出来事だった。それだけは確かだ。

「……おまえ、なんかとろとろしてる……目が」
「……貴様の瞳の方がよほど蜜のような色をしているだろう」

 くだらない内容の話に乗ってくるだけではなく、あのスーパーの高い棚の上に陳列されている蜂蜜のような、とやけに具体的な例をアーチャーが出してくるものだから士郎は驚いた。気付いていないだけで互いに少し動揺しているのかもしれない。
 普段ならば反発し合いそうなものだが、こうなってしまったからには申し訳ないが水に頼んで色々なものを流してしまおうという方向で意見が一致したらしい。
 最後までその場に存在できなかった騒ぎはどうなったのか。起きれば事後処理――片付けがあるのだから、どうせそこで背中合わせに言い合うのだから、いま言い合うことはないだろう。そんな、天敵相手としてはらしくないことを考えた。

 そして、まあ、流れではあったが、一度ではなく肌を重ねたことがある相手に対して過敏な反応ができないのだ。
 くぁ、と士郎が噛み殺しきれなかった欠伸で口を開ければ、比例してアーチャーの眉間に皺が寄る。自己管理がどうのこうのと言われる前に士郎は口を閉じた。しかし仕方ないと思うのだ、寒い冬に二人分の体温であたたまった布団は心地良い。
 何より、他者の体温でありながら自身の体温だと認識してまうのがいけない。時を違えた自分の体温は居心地が悪く、しかし妙に己の体に馴染むのだ。
 相手は既に死者であるというのに。そう考えながら士郎が吐き出した息は確かに生き物の熱を持ち、冷たい部屋に白く溶けて消えた。


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