【※EDネタバレ注意!】
EDの全体的なネタバレ注意。
男女どちらのマスターでもどのサーヴァントでもお好きにご想像ください。
間違いは無く、伝わったと思う。
電子の海の水はとても軽い。しかしそこに流れる情報は、とても重い。霊子ハッカーとしての技術を持たない自分が受
け止めたなら、生身の体がある自分が受け止めたなら、きっと脳という記憶装置が壊れてしまう。自分にとって記憶は、
技術や知識よりも、何よりも大切なもの。
それも、もう消えてしまう。所詮偶然の産物である自分は月にも地上にも不要の存在だ。NPCから逸脱しようと何にな
ろうと、結局はただのバグでしかない。
溺れ死ぬようなことは無い。だが、苦しい。
苦しい。猶予が長ければ長いほど苦しさが増す。
気付いてはいけない。苦しみの正体に気付いてはいけない。
気付いたら、苦しみに耐えられなくなってしまう。
もう、自分の剣となり盾となってくれたサーヴァントはいないのだ。
ここには自分しかいない。一人だけ。人と呼べるかも分からない、聖杯戦争の勝者だけが存在している。
ああ、長い。消滅までの時間が長すぎる。
錯覚しているだけで実際の時の経過はそれほどでもないのだろう。いまの自分には致命傷を与えかねない時間の流れに
身を丸めるが、皮膚には何も伝わらない。今まで確かにあったはずの熱も、電子の海を漂う情報の粒子も。
意識をシャットアウトしてしまいたい。無駄な願いを、聖杯に注ぎ込むわけにはいかない。自分は、バグなのだ。この
世界を永遠に存在などさせてはおけない。こんな争いは二度と繰り返させない。
早く、早く。早くこの自分を人たらしめる記憶と精神をこの海に溶かして。
気付いてはいけない。余計な願いを持つな。
自分は亡霊だ。心配などしなくても、そんな言い訳などして縋り付かなくとも、少なくとも自分よりずっと優秀、と言
葉にする事自体がおこがましいほどに優秀な彼女が確かに存在している。
もう何も考えるな。願いを抱くな。身を丸めて、最後のその時まで電子の海を漂えばいい。
沈む。漂う。戻ることの無い光に向かってぼんやりと手を伸ばす。誰かが、いつも傍にいてくれたあの存在が握り返し
てくれるわけがない。
胸に溢れた想いが口から飛び出しそうになり、奥歯を噛み締めて感情の波を耐える。
――耐えたのに。耐えられたのに。それなのに、嗚呼。
電子の海を切り裂いて。聞き間違えるはずのない、あの声は、
思わず開いた唇からごぽりと零れ出た情報の塊。仕方ない。だって絶対の命令権は、自身の命の残りはもう無かったの
だから。来るなと、彼女と共にと命令する権限を自分は持っていなかったのだから。
仕方ない。仕方ない。だから、このあふれ出すばかりの想いも仕方ない。
「――あ……、――あああああああッ……!!!」
悲鳴。咆哮。嘆き。
唇から零れ出た意味など持てない叫び、じわりと瞳から零れ出る涙。
消えてしまうのが怖い。自分という存在はどこを探しても見つけられなくなる。気付いてはいけなかった。苦しみの正
体に、気付いてはいけなかった。
底の無い恐怖に身を震わせ嘆くことなど、自分のような存在には許されないというのに。
何てことを、人がどれだけ頑張って気付かない振りをしていたと思っているのか。
消滅への痛み。それは姿は見えなくとも確かに感じる存在のせいで増すばかりだが、不思議と恐怖は薄れていく。
……当たり前だ。二人、共にいれば、自分は怖いものなど何も無かった。
自分の痛みに反応するかのように開いていくデータ。提示された情報、その姿は、
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