決着はついた。そう告げたラズロに、彼は最後まで武人で在れた事を感謝した。だからこそ、ラズロは聞いてしまったのだ。共に来るつもりはないのかと。かつての己のように、終わりを決めていたような男に。

「……私の中に流れるは、この母なる海の潮。私にも、還る時が訪れたに過ぎぬ」

 その言葉は違和感なくラズロの意思に潜り込んできた。誰のどのような言葉と比べても、男の紡ぐその言葉以上に身に馴染むものをラズロは知らない。それはまるで水のように、自然と体に、心に染み込む。

「いずれまた、この海で会おう……」

 ラズロはその男の言葉を聞いて、ふっと体が軽くなるような、今まで抱えていたものを本当の意味で受け止め、受け入れたような気がした。
 ずっと海に還りたかった。そう決めていた。だが、ラズロはもう別の居場所を得てしまった。死にたくもなかった。――それでもよかったのだ。
 母なる海は全てを受け入れ、そして還す。ラズロは、必ず海へと還る時がくる。
 そう、ラズロの身に流れているのも母なる海の潮。遅いも早いも理不尽も何もない。ただそれは、還る時がきただけなのだと。

 だからラズロはその瞬間だって怖くはなかった。ただ真っ直ぐに背筋を伸ばし、左手を掲げる。誰一人、この広い海で導を失い迷わぬように。自分こそが導きの星であると、叫ぶように。
 制御などしなくていい、我が左手に宿るは伴侶。罰はもう移ろわせない。――ラズロは、そう決めた。

「我が真なる罰の紋章よ――!!!」

 許しと償いを司り、罰を冠するその紋章はまるで嘆くかのように鳴く。零れ落ちる涙は海へと還れる事への安堵なのか、それとも彼らの隣へと帰れぬ事への悲しみなのか、分からなかった。

 霧と青を薙ぐ赤い輝きは対抗する光をかき消すように。血を吐くような叫び声と、傾く体。
 誰よりも早くラズロの名を叫び呼ぶ声は、きっと誰よりもラズロという名前を呼び慣れている親友のもので。迷い無く、基本がお坊っちゃんの彼にしては珍しく、荒々しくラズロの下へと駆け寄ってくる足音も聞こえる。
 しかしラズロの体は重く、視界は暗く、傍らにいるはずの親友の姿は、もう見えない。



 ――それが、ラズロと呼ばれた天魁の星。彼の最後だった。

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