一生のお願いだよと吐き出された言葉は、優しくも逆らえぬ強さを持っていた。 彼は一番の親友であり、唯一だった。いつも、さりげなく手を引いてくれた人。隣に立っていた人。 もう、隣には誰もいない。 死神は元の宿主の魂を得たことで歓喜に震え、金属音のような歓声をあげる。どうしようもない感情が胸を裂いた。 誰か罰を。そう思うが、これ自体が罰なのだと言われたら、自分は何に対して償っているのか。 ティルはあの日のように今にも泣き出しそうな空を見上げ、静かに息を吐いた。 「テッド」 「おー、どうしたんだティル」 「いや……、どうというわけでもないけど、何を探してるんだ?」 「別に探してるわけじゃない、たまたま手に取った本に惹かれて関連書をあさってるだけだ」 テッドは本が好きだ。普段の姿から意外と思われることが多いが、少し気にして観察してみればテッドの言葉や行動には普通の生活で得ることができない知恵が滲む。 暇な時間は読書の時間とテッドが決めているのを知っているティルは特に疑問も抱かず、テッドが惹かれたと言った本を手に取り表紙を見る。真なる紋章について描かれた絵本。それから、 「群島……解放戦争」 ティルは、またこれかと思った。テッドは戦争や争いを極端に避け、知識や情報として吸収するとき以外はその世界に触れないようにする。しかし、そのテッドが好き好んで読む戦争の歴史だ。 確かに興味深い話ではある。だがティルからしてみればそれまでの話だ。 事実だけが淡々と書かれているその本は歴史書としては優秀だが、読み物としてはつまらない。 群島解放戦争について書かれた本はマクドール家に他にも存在している。それでも、テッドはその本ばかりを繰り返し読み返していた。 「いま探してるのはそっちじゃないぞ」 「わかってるよ、テッド、前から聞こうと思ってたんだけど、この本に何を見てるの?」 拗ねたように問えば小さな子供をなだめるようにテッドが笑う。そういった類いの笑顔は、どうも親友を遠く感じて嫌いだった。 結局、いつものようにはぐらかされる。ほとんどの人間が踏み込まれたくない領域というものを持っているのは、理解しているのだが。 テッドが語ってくれた探し人や、つまらない歴史書に感じ見る人と同じ場所に立てるだろうか。いつか、彼が自分を必要とし、頼ってくれる日はくるのだろうか。 ティルは言葉に出すことなくそう考え、親友を少し困らせてやろうとさらに拗ねた振りをして手に取った本を開いた。 「こんな形は、望んでなかったよ、テッド」 魂は死神に喰わせ、体も残してはくれなかった。そんな親友の墓と呼べるかわからぬ場所に花を投げる。 水晶が鈍く煌めく空の下。ついに降り出した雨に打たれながら、彼はいったい、どこへ帰ったのだろうかと思った。 |