※同級生設定、覚醒状態歪んでるけど仲良し。
竜ヶ峰帝人:自由人・基本的に敬語
平和島静雄:常識人・基本的に紳士










「しーちゃん」
 少し高めの男の声、呼んだ方は嬉しそうだが呼ばれた方は顔を歪めた。いくら見た目が中学生だろうと高校生男子がそれは無いだろうと、静雄は椅子に座ってまったりと手を振る帝人に頼まれていたパンを投げつける。静雄に投げられたパンは綺麗な直線で帝人の頭に命中し、帝人は小さな悲鳴を上げた。
「人に買いに行かせといていい身分だなー、帝人」
「……わー静雄さんあんぱん破裂してる! ぐちゃぐちゃになってますよ! すごい!」
「本気で嬉しそうにするんじゃねーよ」
 静雄は自分の席に着きながら床に落ちた袋の中でぐちゃぐちゃになったパンを見て心底嬉しそうに声を上げる帝人に溜息を吐いた。自分のせいだと分かっているが破裂してほぼ原型を留めていないパンに笑顔で食い付く姿は見ていてシュールである。いつもの事だがとても残念な気分だ。
 帝人が非日常に異常と言える憧れを持っていることは、名前も思い出したくないが折原臨也が人間に向ける狂った愛とよく似た感情持っていることを静雄は知っている。破裂したパンも、それの原因となった静雄の力も帝人にとっては愛すべき非日常だ。
 化け物のような力を受け入れられている、それは静雄にとって喜ぶべきことなのだろう。事実、言葉では表せない喜びを抱いている。それでも憧れの裏に見える底の無い暗い淀んだ感情を見てしまうと素直にその憧れを受けることはできなかった。
 だが静雄が歪みに気づいてからも友人という関係は続いている。静雄は、歪みに気づく前の純粋な友情というものが手放せなかった。
 帝人が非日常を具現化したような存在である静雄に抱いている歪んだ感情に嘘はない。しかし、その歪みの上に存在する純粋な親愛に偽りはない。それを静雄は捨てきれない。
 そして何より、どんなに歪んでいても普通であり続ける帝人への憧れを否定できなかった。

「あれ……、臨也さんに会いました?」
「なんで」
「頬切れてますよ」
 殺し合いといっても過言ではない臨也との喧嘩で毎日のように怪我をする静雄のために常に何かしら持ち歩いている帝人の鞄の中から当たり前のように絆創膏が出てくる。臨也の名前に一気に不機嫌になった静雄の頭を掴んで、動かないように、と無言の圧力をかけながら帝人は滲んでいる血をハンカチで拭って静雄の頬に絆創膏をはり付けた。
「これくらい明日には治ってる」
「それでも血を流しながらの食事はどうかと思いますよ」
 静雄は眉間に皺を寄せたままだったが帝人の言葉に、不衛生か、とはっとしたように呟き感謝の言葉を口にする。どこかずれてるよなあと思いながらも帝人は素直に感謝の言葉を受け取った。
 静雄がこうした文句を言うのは小さな傷まで手当てしていたら好意で消毒液や絆創膏を持ち歩いている帝人の出費にキリがないと理解しているからだ。それなら喧嘩しないでくれたほうが嬉しいなと帝人は言わない。巻き込まれさえしなければ、少し巻き込まれるくらいならば愛すべき非日常だからだ。
「いつも悪い、そういえば新羅の奴どうした」
 あんまり無理しないでくださいね、と絶対に叶わないであろうことを期待せず口にして、静雄の言葉に帝人はここにいないクラスメイトの数分前の姿を思い出す。
「新羅さんはセルティさんに電話です」
「昼休み終わるまで帰ってこないな」
「だからもう先に食べちゃいます」
 ぐちゃぐちゃになっているサンドイッチに手を付けながら微笑む帝人に静雄も曖昧に微笑む。悪い、と謝れば本当に不思議そうな顔で何が? と言われて素なのか全て分かって言っているのか判断に悩んだ。
「パン、俺のと交換するか?」
「別にいいです、食べれれば」
「飲み物無事か」
「ちょっと潰れてますけどパンが守ってくれたみたいです」
 べこり、と角が完全に潰れている苺牛乳のパックは悲惨の一言に尽きる。帝人はにこにこと笑っているがそれが余計に不気味だ。
「元はといえばあれくらいでキレる俺が悪いんだ、ほら、交換」
「ああ、しーちゃんって呼び方」
「しーちゃん言うな」
 帝人の手から苺牛乳のパックを奪い取って代わりに普通の牛乳パックを握らせる。気の抜けるような笑みで呼ばれた愛称にぺしりと額を叩けば静雄にしてみれば軽い力だったが帝人の頭は大きく揺れた。
「あ、悪い」
「しーちゃん、女の子相手とか気をつけたほうがいいと思う」
「だからしーちゃんて言うなって言ってるだろ、あいつ思い出すんだよ、直前に見てると特に、……あー何かむかついてきた」
「臨也さんはシズちゃ」
 頬を掴まれた時点で嫌な予感はしたが、言葉はするりと零れ出る。ぎゅっと力を込められることで言葉は途切れたが。
「みーかーどー、言うなって言ってんだろーが」
「痛い痛い痛い」
 そんなに痛くなさそうに普通の人にやられても痛いのにと呂律が回らない状態で言われて静雄はさらに手に力を込める。さすがに痛い痛いと本気で叫ぶ帝人の声を聞いて手を離した。
「静雄さん結構子供っぽいですよね……」
 赤くなった頬を擦りながら恨めしそうな目で見上げてくる帝人に、どっちが、と言い捨てて静雄はべこりと一部が大きく凹んだせいで今にもどこからか中身が流れ出そうな苺牛乳をどうするかと思案した。











昼食はジャンケンで勝った方が買いに行きますが帝人だと購買に群がる波に潰されるので帝人が負けると大抵二人で買いに行くという無駄な裏設定。


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