空よりも深い青の海。太陽の光に輝き、時に人を飲み込むその海がラズロの故郷であり、母であった。
 海に投げ出されたことはあったが、決して海に恐怖を抱くことは無い。海が自分を殺すならば、それは定められた命の終わりなのだとラズロは信じている。
 幼いラズロを飲み込んだ海はその小さな体を波に乗せ、ラズロを生かした。その時から海はラズロの母であり、墓である。たとえその身が罰に侵されているとしても、ラズロは海で死ぬと決めていた。
 罰の紋章に命と体はくれてやろう。しかし、魂だけは海へ帰るのだと。意思や誇り、愛しい記憶は全て海へ帰すのだと、海と共に眠るのだと決めている。
 青く広がる海であっても、墨を流し込んだような夜の海であろうと、夕日に赤く染まる海だったとしても。海に帰れるのならば、何かを守れるというのならば後悔は無い。
 もう、本当に守りたかった人は、傍にいないのだから。

 その考えは罰の紋章を宿した時から先の短い生の中、変わることはないとラズロは信じきっていた。
 しかし世界とは不思議なもので、ラズロの考えを揺るがせる出来事がラズロのもとへと舞い込んできた。始まりになったのは、霧だ。

 その時の航海日誌を読み直しても、何度考えても不思議な出来事だった。船の進むべき道を示す羅針盤が狂ったように回り出し、最悪の事態を考えていた直後に船を大きな衝撃が襲う。慌てて甲板へと走ればそこに空と海の青は無く、ただ霧の白だけが存在していた。
 帆のない船。炎の描かれた白いマントを纏う男。
 問われた真の紋章に対する思いは、生きるという意味に繋がっていて。
 変わることなどないと、信じきってラズロは答えた。変わることなど許せないと左手を握り締めた。
 あの日、青の下で少年が微笑むまでは。


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