ぽたりぽたりと滴るそれは、まるで赤い花弁のようで。
認めたくない気持ちと認めなければいけない事実。派手に抉られた左腰を庇う手のひらには生温く微かな粘度をもった液体が纏わり付く。
ずりずりと壁に肩を預け歩くが次第に視界がぶれてくる。足をやられたわけではないのに足が思ったように動かなくなる。
感覚が、消えていく。それは酷い恐怖を抱かせた。
このままここで倒れたらどうなってしまうのか。きっと腐って朽ちていくだけだ。
しかし、ここならば腐ることは無いかもしれないと、そんなことを考えている場合ではないのにくだらないことばかり考えてしまう。吐く息は、白かった。
ただでさえ寒い場所で身体機能が低下しているというのにこの負傷。それでも血の流れ出る腹だけが妙に熱い。
血から湯気、実際にありえるんだなと。本当に浮かぶのはどうでもいいことばかりだ。いま欲しいのはこの状況を何とかする、要するに打開策だというのに。
そう、打開策だ。行き詰ってしまっている。
地上まで歩いて一時間というところまで帰ってはきたが、体は言うことを聞かなくなる一方だ。そもそも、地上に戻っても仲間がいるわけではない。ここはとても寒いから、外に出たいと思っただけ。
不思議な遺跡だった、地下なのに雪が降る。そんな遺跡内部に、ふと三ヶ月の高校生活を思い出して少し元気が出た。
入り口付近は鍾乳洞。徐々に気温が下がっていき、今ではひらりはらりと雪が降る。長い間人の出入りが無かった遺跡のそれは汚れも無くとても綺麗で、雪影は青。
とても。とても綺麗だった。それでも、ここで死のうとは思えなかった。

だが、脳は正直だ。ついにばたりと雪の上に体を横たえてしまった。これでは体が今まで以上の速度で冷えてしまう。冷えれば冷えるほど動けなくなると、理解している。それでも指一本動かせない。
白に赤が広がる。焼けるような熱が冷えていくようで心地いい。駄目だ駄目だと生にすがり付く自分が叫ぶ。

もう、いいではないか。と思ってしまった。

一度諦めてしまえば終わりはあっという間も無く喜び勇んで首を刈りにくる。それもまた、宝探し屋としての人生だと思えた。こんな綺麗な遺跡の中、遺跡の罠で死ぬなんて素晴らしいではないか。罠を解除できなかったのは完全に汚点だが。それが心残りだ。

白いだけの視界は目を開けているのか閉じているのかさえ理解できなくする。死んでいるのか、生きているのかさえ曖昧になり。そして、






























「おい、俺のいないところで何をやってるんだ」
聞こえた声に、死んでいたはずの意識が急激な変化を見せた。
ここに、いるはずの、あるはずの無い声。
「こんなところで死ぬなんて許さないからな」
どうして、と問う声も出ない。ああ情けない。また助けられてしまった。
「お前は、俺に生きろと言った」
九龍。そう呼ぶ声は静かで穏やかで。
死ぬなんて許さないと、かつて彼に与えた激情と傷が返ってきた。
ならば自分は、答えるべきなのだろう。

馴染んでいた空気が冷たいと思った。指一本、動かないと思っていた。
ざくりと。体を支えるために手を差し込んだ雪の影は綺麗な青で、葉佩は小さく笑った。

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