※帝人17歳(来良三年生)覚醒状態、色々捏造注意。
殺伐仲良し。池袋のリュウガミネと新宿のオリハラ。










 鍋をしましょう。帝人のその一言で現在臨也と帝人は朝から二人で鍋を囲んでいる。
 突然の電話に何かと思えば鍋をしましょう。それから数分後、鍋の材料を持って訪ねてきた帝人に向かって臨也は相変わらず面白い子だなあと笑みを浮かべた。

「で、何か俺に用があったんじゃないの帝人君」
 帝人はもくもくと口に食材を運ぶ手を止め、視線だけを臨也に移す。そうして口の中のものを全て飲み込んでから、鍋が食べたかったんですよ、と呟いた。
「俺じゃなくても君なら一緒に食べてくれる人いるでしょ」
「どうせだから一人で鍋なんかしちゃう貴方を誘おうと思って」
「君も言うようになったねー……」
 臨也が顔を歪めれば逆に帝人は嬉しそうに楽しそうに笑う。食べないなら全部食べちゃいますよという言葉に臨也も大人しく鍋に箸を伸ばした。

 竜ヶ峰帝人と折原臨也は友人だ。依存して利用しながら、依存せず利用しないという矛盾した関係を築いている。
 愛情や友情では表せない歪んだ関係。友達です、友人だよと笑いながら言った、だから自分達は友人だ、と帝人と臨也の生温い妙な関係は一年以上続いている。
 こうして二人だけで食事をするのも良くあることだ。帝人が臨也のその時使用している生活拠点の情報をどこからか入手してきて勝手に訪ねてくる。あとは自分達で何かしら作るか出前に頼るか。帝人が臨也の家に乗り込む理由は様々だが、その内のいくつかの理由は説明されても理解できない、意味が分からないものでどこからか帝人に流れる自分の情報のこともあり臨也は帝人に何か不気味なものを感じる。それでも帝人を拒まないのは自分が彼を気に入っているからなんだろうと臨也は帝人の持つ器から肉を掠め取った。
「本当に今日来た理由は何?」
「……本当に鍋がしたかっただけですよ」
 少し不満そうな表情をしながらも帝人は掠め取られた肉については何も言わない。帝人から奪った肉は食べてしまったが、臨也は代わりに今まで自分が食べようと煮ていた肉を帝人の器に入れてやる。冷めた目で見られて臨也はいつもの調子でへらりと笑った。
「今のやり取りに何の意味があったんですか」
「あえて言うなら早く肉が食べたかった、かな、そういえば帝人君進路決まった?」
「普通に大学ですよ」
「俺のところに就職してみない?」
「お断りしますけど生活費が危なくなったらお世話になります」
 困ったように、だが今日顔を合わせてから初めて帝人が笑う。軽口を言い合いながら鍋の中を漁る二人は傍から見れば歳の離れた普通の友人だ。二人の繋がりを知ればそんなことはありえないと誰もが口を揃えて言うのだが。
「そうだ帝人君、……必死に口の中に詰め込んでる途中で申し訳ないんだけど」
「……な、んですか」
「知ってる? 君が最近池袋でなんて呼ばれてるか」
 帝人は首を横に振る。その反応に、そっかそっか、とにやにやと笑って上機嫌な臨也を見て帝人は顔を歪めた。少し前とは立場が逆だ。
「なんて呼ばれてるんですか、僕」
「ここ数ヶ月で君がどんな存在か知った人も多いだろうしねー」
 帝人が腹を肘で突けば聞きたい? と言ったような表情を浮かべる臨也は悪戯少年のようにも意地の悪い大人にも見える。むかつく人だなと思いながら帝人はペンを回すように箸を回す。行儀が悪いかと思ったがこの人の前では今更かと開き直った。
 帝人もアンバランスだが臨也もアンバランス。友人という関係になってから常に立場が逆転し続けそれでいて対等でいられるのは二人が安定していないからだ。それを心地良く思うのだから救われない、と帝人は冷笑しながら臨也の顔に向かって箸を勢いよく突き出した。眼球を狙ったそれは眼球には突き刺さらず、帝人の攻撃、戯れは臨也の手によって鍋の蓋で防がれ、ガツン、と地味な音がしただけで終わった。
「池袋のリュウガミネ、だってさ」
「失笑ものですね、特に新宿のオリハラさんを意識してるあたり今にも笑ってしまいそうです」
「いいよねー、俺達親友だし」
「友人ですよ、臨也さん」
 木製の箸と鍋の蓋が擦れて変な音が鳴る。満面の笑みを浮かべて笑い合った後、二人は再び鍋の中を漁ることにした。
「君が首輪をつけてリードを握ってるあの子達、どうするつもり? あの子達のせいで君、随分と色々なものを無くしたよね」
「青葉君達は犬じゃありませんよ、だから首輪もリードも無い」
帝人は穏やかな表情で笑う。しかしどこまでも冷たい目に臨也は溜息を吐いた。
「僕は網を張っただけですよ、彼等が他の者達を傷つけないように」
「ダラーズは底無しの海なのにあんな狭く浅い海に閉じ込められて可哀想に、えげつないなあ帝人君、君はあの子達を飼い殺すつもりなんだ」
 中学生にも見える外見で困ったように笑う帝人は人畜無害な人間にしか見えない。そんな人間がもしかしたら何よりも歪んでいるかもしれないなんて誰が気づけるのか。ただ一人を除いて、誰もが彼を普通だと言ったのに。
「でもいいのかもね、その網の中心に君が立っている、君の周りを泳ぎ続ける限りあの子達はきっと浅い海でも溺れ死なない」
 帝人は微かに目を見開いた後、その言葉が最大の賛美だとでも言うように嬉しそうに微笑む。それから小さく口を開いた。
「いつ食い殺されるのかはらはらしてますよ」
「食われてやる気なんてないくせに、本当に酷いなあ帝人君は」
 いつの間にか汁を残してからっぽになった鍋に二人で手を合わせる。おいしかったですねと笑う帝人に臨也も笑った。
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