1時代。










今日からここに一緒に住むことになると紹介されたのは、一瞬男女の区別に悩むような容姿の人だった。
女性にしては背が高く、しかし少女のような可愛らしい顔で。
失礼ですが、女性ですか男性ですか? と聞くこともできたが、これで女性であったら本当に失礼にも程があると思いティルは言葉を飲み込んだ。

「ラズロです、行き倒れているところをテオ様に拾っていただきました」

そう自己紹介したラズロを見て、突然家の住民が一人増えたことに関しては、ああまた父さんの拾い癖か……と、どこか他人事のように納得した。が、その拾い癖が確実に自分にも受け継がれていることをティルはまだ知らない。



「で、その格好は何ですか?」
「一応私は小間使いという立場でこの家に置かせてもらいますので、服装をどうにかしないといけないと考えていたらグレミオさんが」
地味な黒のワンピースに白いエプロン。取り外し可能な白のカフス。頭には出会った時に額に巻かれていた赤いはちまきがリボンのように結ばれている。
そしてその時初めてティルはマントを羽織っていないラズロの姿を見た。服の起伏からラズロの性別を把握し、あんなこと聞かなくてよかったとほっと息を吐いた。
「以前働いていたお手伝いさんの服がありますよと言ってくださったので」
「……なるほど」
ティルも、ラズロを拾ってきた父も、その服を与えたグレミオも、まさかここまで本格的な姿勢を彼女が取るとは思わなかっただろう。しかし、それがどれだけ前になるか分からないが幼い頃から小間使いとして働いていた彼女にとってその行動は当たり前のようなものだった。
廊下で箒と塵取り。水の入ったバケツに雑巾を持ったラズロとすれ違い何事かと思ったティルだが、考えてみれば確かに何も不自然ではない。さすがにメイドとは呼べる格好ではないが、完璧なお手伝いさんスタイルもこれから掃除をするとなれば自然なものだろう。
「炊事洗濯基本は何でもできますが、食事は先日ここにきたばかりの私が用意させていただくのはおこがましいと思いました」
だからせめて掃除をすることをお許しをいただけないでしょうか。
ラズロの真っ直ぐな青の瞳に、ティルはすでに抵抗できない。どうも意志を貫かせる力があるのだ。
「……部屋は、自分達で掃除する決まりなんだよ、マクドール家は」
「はい、存じ上げております、ですからそれ以外の場所、廊下や玄関、倉庫掃除などをすることを許してはいただけないでしょうか」
断る理由がない。
「……ついでにさ、パーンの部屋もちょっと覗いて掃除してやってよ」
「パーンさんの?」
「掃除苦手みたいでたまにグレミオに押し入られてるんだ」
「はい、承りました」
とても綺麗な礼。頭を下げた時に肩上で切り揃えられた髪がさらりと揺れた。
それだけ見れば文句無しに美人なのだが。箒に塵取り、使い古された雑巾やバケツ。それも彼女の魅力だとは思うが、恋愛感情を抱けるかと問われたら微妙である。
初恋はクレオであり、凛とした女性に惹かれる傾向のあるティルを基準に考えるのは間違いだが、今のラズロの格好を見てがっかりする男性は多いだろう。元がいいだけにさらにがっかり感が増す。
「それでは夕食までには完遂致します」
「あ、待ってラズロ」
「? はい、ティル様」
父が助け、家に家族として招くこと決めた者は皆一癖ある人達だったがラズロも例に漏れず。
そう思ってティルは小さく笑い、どうしたのだろうかとラズロに首を傾げさせた。
「そのティル様って言うの止めてくれないか、歳もそんなに違わないだろうし」
ラズロは、実際は百数十と離れていますが、とは口が裂けても言えない。
「申し訳ありませんが、了承しかねます」
「いいんだ、僕も父も呼び名には拘らない、敬称は、相手に敬意を持ってこその敬称だと僕は思うから」
「それならば尚の事、そんな考えを持つ方だからこそ、私はティル様に敬意を持っております」
「おとなしそうな顔して君って結構頑固」
「褒め言葉としてお受け取り致します」
やわらかい微笑みに仕方ないなとティルも笑う。新しい家族はどうも食えない性格のようだ。

「そうだ、実はまだ一人家族がいるんだ、今は自分で借りてる家の方で何かやってるみたいだけど、今日は夕食食べにくるんじゃないかな」
「どんな方なんですか?」
「僕の親友だよ」
奇跡とも運命とも言える巡り合わせを今はまだ誰も知らない。










4様にマクドール家でメイドして欲しかった。後悔はしてない。

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