「凛としてるところが良い」 「照れた顔がいいんだろうが」 「ラズロはかっこよくてこそラズロだよ」 「その配分が絶妙なんだよな、照れ顔も真面目な顔も貴重ってわけじゃない」 「というかさ」 さっきから、テッド好みのタイプ丸出しだよね。とティルは冷たい目でテッドを見た。 ティーカップを口に運ぶ途中でよかったと、そんなことを言われた側であるテッドは思う。思わず吹き出してしまうところだった。 「……お前こそ丸出しだろうが、俺知ってんだぞ、お前の初恋がクレオさんだってこと」 「クレオはすごく素敵な女性だからね」 「そういうところがお前の強みだよな……」 認めてしまえば、決して隠すということをしない。真っ直ぐな言葉は気持ちを伝える時有利だ。特に好意などは。 直球に好きだと言われて気を悪くする人間はそれほどいないだろう。現にテッドもそんなティルの言葉にほだされた一人だし、どうやら話の中心であるラズロもティルの言葉はまんざらではないようだ。 どちらかといえば自分の気持ちを隠すように生きて。しかもラズロに対して無駄に意地を張ったことがあるテッドにとって、ティルは強敵過ぎる。 それでも諦めきれないから、こんな妙に和やかな言い争いをしているのだが。 「ラズロってテッドの好みのタイプど真ん中なんだろ」 「否定できないな……男じゃなかったら完璧」 ふわりとした雰囲気と笑顔。少し強引なところもあって、流されているようで芯はしっかりしている。 家事全般が得意。そしてさらさらと風になびく髪に、意志の強い大きな青の瞳。 「顔は、本当に何でこいつ男に生まれてきたんだろうなーと思う」 「僕はラズロが男でよかったと思うよ、だって女性だったら百五十年待つことなくテッドが惚れて攫ってそうだから」 「おい」 「テッドは手が早いと思ってたんだけど、違う?」 「……否定は、できないな」 閑話休題。 「どこが好きかって話だけどさ、僕好きになった以上全てを愛したいから」 「な、それなら俺だって……!」 「ねぇ」 「ん?」 「どうした?」 「そういうのは……本人がいないところでするものでは、ないのかな」 「ははっ、そうですよね! 惚気なら余所でやってください」 「何でリオウそんなに苛ついてるの」 「ナナミちゃんにフラれたみたいだよ?」 こてん、と首を傾げながら言ったのは、ティルとテッドの話の中心であるラズロだ。二人が飲む紅茶を入れたのはラズロで、そもそもリオウがお茶をしましょうと三人を誘ったのが始まりなのでこの場にラズロとリオウがいることに何ら違和感はない。 「男の嫉妬は見苦しいよリオウ」 「三角関係に挟まれた僕の気持ちも考えてくださいよ」 深く吐かれた溜息に、何故かラズロが謝る。ラズロは、どんな話の流れからそうなったのか憶えていないが、突然始まったティルとテッドによるラズロの好きなところを言い合う大会に戸惑い口を挟むこともできずおとなしく紅茶を飲んでいただけだというのに。 「ラズロさんが謝らなくても……、そうだ、この際だから聞いちゃいますけど、結局ラズロさんってこの二人は許容範囲なんですか?」 「え?」 本気で驚いたような顔に、おろおろと言葉を探すような仕草。 あ、これは駄目だなと判断したリオウは即座に質問を変えた。 「男は恋愛対象として許容範囲なんですか?」 「え、……性別は、好きになってしまったなら、こだわらないかな」 「じゃあ、今まで出会った人の中でこの人となら付き合ってもいいと思える人、います?」 ティルも直球だが、リオウも直球だ。 ティルとテッドの間に緊張したような空気が流れる。そんなこと気付いていないように、ラズロは宙に視線を漂わせていた。約百五十年の人生を振り返っているのだろうか。 長い生の中、例えばの話だとしても記憶に残っていてさらに付き合ってもいいと思える男など。ラズロに好意を抱く二人にとっては興味がないわけがない。知ったところで、何が変わることはないが。 「……キリル君かな」 誰だ。お互い同時に互いに視線を向けたことで、ティルとテッド、どちらも知らない人だということを理解する。 「いつ会った人ですか?」 「群島解放戦争が終わって、わりとすぐかな、ああでも子供の頃にも一度会ってるか……」 戦争が終わってすぐにテッドは群島を出た。知らないはずだと心の中で思う。 ティルは、子供の頃に一度会っていて、成長して再会とかそんな恋愛小説みたいなのは卑怯だなと思った。 「あー、それじゃあもう故人ですか、会ってみたかったです、ラズロさんが付き合ってもいいと思えるような男性」 「え? いや、キリル君は……まだ生きてるんじゃないかな」 何で。今度はラズロを除く三人の視線が一斉にラズロに集まった。 「真の、紋章持ちか?」 「違うよ、ちょっと特殊な事情で……五十年くらい前に会ったし、たぶん死んではいないと思うのだけど」 強ばったテッドの声に、さらりと何でもないようにラズロは答える。 改めてこの場にいる人間が、自分を含め変な人間の集まりであることを理解して。リオウは遠い目でラズロをどこか他人事のように眺めた。 「……ラズロ」 「なに、ティル」 ふと、今の話題になってから沈黙を保ってきたティルがぽつりとラズロの名を呼ぶ。 首を傾げながらそれに答えたラズロの手を、ティルは突然握り締めた。 「僕は、貴方の全てを愛したいと思う」 「……う、あ、え?」 「だけど、」 「ティル!」 言葉を遮られたことによりティルの眉間に皺が寄る。しかし遮った本人はそれどころではない。 「何いきなり口説いてんだよ!」 「やっぱりラズロは早く素直に口説かないといけないなと思って」 「だからって……!」 「素直に口説く勇気がないなら邪魔しないで」 本気だ。それが、リオウや、ラズロでさえ分かる。 テッドは、たしかにティルに比べ言葉も口調も態度もひねている。だが、しかし。 やらねばならぬ時ならば、そんなことは関係ない。 「ラズロ」 「テッド?」 ティルに握られている右手ではなく、左手をまるで騎士が姫にするようにテッドに優しく掬われラズロは目を見開いた。 「この手に口付ける権利を貰えないか?」 「なっ……!」 普段人をからかうような発言の多いテッドの真剣な目と声に一番動揺したのは、当たり前というべきか、ラズロだ。下から見上げられるようにして請われたものに、頭はパンク寸前だ。 「気障だね、テッド、それで何人泣かせてきたの?」 「お前には負けるよ、なあラズロ、一生のお願いだよ」 「君の、一生は、何回あるんだ」 「百五十年前に一回、今で二回目だ、俺は三百歳越えてるし、いいだろ?」 いいとかいいじゃないとか。そういう問題じゃないと口に出さずとも目が語っている。 目に見えて染まった頬を見て満足そうに笑うテッドに、ティルは好みのタイプのことを指摘した時以上に冷たい目を向けた。 「こんな酷い男じゃなくて、僕を選んでよ」 これはいっぱいいっぱいだなと気付いたのはリオウだけで。三十秒近く視線を彷徨わせた後、ラズロは勢い良く二人の手を振り払い立ち上がった。 がたんっと響いた音に手を振り払われた二人は茫然とする。ラズロは頬を赤く染めたまましばらく肩で息をすると、何とかいつも通りを取り戻し、そして叫んだ。 「私に愛されたいなら、私を惚れさせれば良い」 私は好きな人への献身は惜しまないよと言ったラズロを見て、ああこれは惚れる気持ちも分かるなとリオウは思う。理不尽にも思えるその言葉が何故か男前に聞こえる。 行き場を無くした手を見て、互いに顔を見合わせているティルとテッドに、結局今までと何も変わらないのではないのかと言ってやるほど、リオウはお人好しではなかった。 総受けの意味を全力で間違えた気がします。すみません。 リオウがナナミにフラれたは恋愛的な意味ではなく予定的な意味で。 あと忘れちゃいけないのが、SpecialThanks.キリル様。 リクエストありがとうございました! |