4主=?
カインとラズロを含む、でもまた別の4主。
今までの話で二人が積み上げたものを全部持った4主。




最終決戦。





海に沈んだ海神の申し子。崩れるエルイール。戻ってこない軍師。落ちそうな星。
(エレノアさん)
分かっていた。彼女はもう戻ってこないと。頼んだのは、許したのは、自分。

「駄目です! 防げません!」

甲板にしっかりと立ち、左手を胸の前へと持ち上げる。
視界の端にリノ王の悲痛な顔が掠める。どんなに制止の声が聞こえようと、自分は振り返らない。
覚悟はしている。許しなど自分は要らない。大切なものを、守れるというのなら。

「我が真なる罰の紋章よ……!」
――!

自分がそう唱えるのと同時に、海風に乗ってひとつの声が届く。
自分の名前を叫ぶその声は、いつも無愛想だった少年のもので。
聞いたことの無い切羽詰った、血を吐くような叫びが耳に届く。それでも、振り返りはしない。
もう一度、自分の名を叫ぶ声が聞こえる。
その後も何度か呼ばれたかもしれないが、他の仲間達の声に混じってその声だけを聞き取ることは出来なくなってしまった。

――ッ!!

今度は泣きそうな声がはっきりと耳に届く。おてんばな王女様の声だ。
重なって聞こえるは王の謝罪。

謝罪などいらない、自分はもう許している。
許す以前に、罪など無いのだ。
彼等が、彼女達が、自分のこれを、罪だといっても。

(俺はこれを罪だなんて思わない)


さぁ罰よ。俺と共に還ろうか。






「我が命を糧とし、その力を示せ!!」






あの、母なる海へ。


――。
置いてきたのは、家族、友人、仲間。たくさんの人たち。
捨ててきたのは、自分。

「坊主! 名前はなんて言うんだ?」
「スノウです」
「スノウか、お前まだ若いだろう? なんで一人旅なんかしてるんだ」
「……世界を、見てみたいと思って」
「ほう、お前出身はどこなんだ?」
「群島です」
「そらまた遠くから来たな! まぁゆっくり観光でもしていけ」
「はい、そうするつもりです」

家族、友人、仲間、たくさんの人達の名前を借りた。
自分の名前は、忘れてしまった。たった数年で。忘れさせた。
自分を捨てた、海に還した。あの紋章と共に。



あの人は沈んだ、海に還った。もう帰ることは無い。


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