4主=ラズロ
決戦前夜








「エレノアさん……」
「今更、何の用だい」
手に持った酒瓶を傾け、酒を喉の奥へと流し込みエレノアは何とも言えぬ顔をしたラズロに問い掛けた。
「あんたが言ったんだろう、お願いしますと」
「そうです」
「ならそんな顔は止めるんだね、軍主がそんなんじゃ軍の士気が落ちるよ」
「後悔はしてませんし、間違った選択ではなかったと思います、止めても貴方は行ってしまったでしょうし」
「なら」
「でも納得はしてません」
エレノアの声を遮るように、ラズロが声を上げる。
見るものが見れば分かる程度の些細な表情の変化であったが、たしかにラズロは怒っていた。
ラズロが今抱いている感情は間違いなく怒りの感情で。ラズロが怒るのは、本当に稀なことである。
「納得はしてません」
ラズロが言葉を繰り返す。真っ直ぐで戸惑いのない声はいつもと変わらなかったが、その言葉には刺があった。
「……まったく、変なことに気をとられるんじゃないよ」
「重要なことです、貴方に死なれては困る」
「誰も死ぬなんて言ってないだろう」
「……帰ってこなかったら怒りますよ」
今度は、誰が見ても分かるような不機嫌さをラズロは顔に出した。
むっ、と眉間に皺を寄せ、口をへの字にする。
普段から大人びている少年の見たこともない顔に、エレノアは口元を緩めた。
「努力はするさ」
その言葉にラズロはさらに眉間の皺を深めたが、やがてぽつりと呟いた。

「……貴方は、俺の軍師であり、大切な星です、絶対に帰ってきてください」

貴方の居場所はここにある。貴方を必要としている者がいる。そう言いながら、ラズロは泣きそうな顔で笑った。


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