※帝人君がヤンデレで非日常大好き。時間軸不明。
歪んでるけど帝人本人は幸せなつもり。










 竜ヶ峰帝人という人間を言葉で表すなら、脆いと平和島静雄は思う。竜ヶ峰帝人から思い浮かぶ言葉の中から平和島静雄はその言葉を選んだ。

「弱いとかじゃなくてですか?」
 どうせ普通とか平凡とか影が薄いとか名前が凄いだとかそんな言葉が出てくるんだろうな思っていた帝人は静雄の言葉に少なからず驚く。脆い、という言葉も理解できなくはないが帝人は自分が弱いとは思っているが脆いとは思っていない。
 身長は低く体重は平均より下で、細い体は頼り無い。静雄に本気で腕を掴まれれば骨は粉々に砕けてしまうだろうけれどしかしそれは静雄が特殊なだけでそれほど脆い体とも思えなかった。
「ちょっと殴られただけで骨とか折れそうだろ?」
「そんな簡単に折れたりしませんよ」
 見た目から細いならきっと骨も普通の人間に比べて細い、と本当に真面目に言われて帝人は少し困ったように笑う。純粋というのが一番扱い易く扱い辛いものだ。
 帝人は何より憧れている非日常に脆い生き物だと思われていることに多少へこみながらどんな風に自分がそれほど脆くない、そんな簡単に骨が折れたりしない生き物だと説明しようか悩む。しかしどう考えても人間の骨などぽっきり折れることもあるわけで、脆いという印象は消せそうになかった。
 だが、例えば折原臨也、紀田正臣。二人は人間であるが、静雄はきっと彼等に対して脆いという印象を持つことはないのだろうと帝人は思う。
「僕は普通の人間ですよ、少し殴られたくらいじゃ骨は折れませんがぽっきり折れることもあるかもしれない人間です」
 その言葉を言い切る前に隣でガードレールに寄りかかっている静雄の気配が悪い方へと変わるのを帝人は察知した。何か地雷を踏んだか、と後悔しながらも帝人は高揚感を得る。本当に骨が折れてしまうかもしれないというのに非日常に出会えるかもしれないという期待を抱く自分に内心笑いながら帝人は恐る恐る静雄に話しかけた。
「し、静雄さん?」
 目に見えて苛ついている。話し相手が帝人、脆い普通の高校生だから我慢できているのだろう。もし先程の言葉を帝人でなく折原臨也が口にしていたならばきっと目の前のコンビニのゴミ箱はそこに存在していない。
「えっと、すみません」
「……何でもないから気にするな」
 静雄の沸点は低いが冷めるのも早い。何とか怒りをやり過ごしたらしいが二人の間には妙な雰囲気が残る。
「俺が少し加減を忘れただけで折れるだろうな」
「えっ?」
「骨、折れるどころか粉々か」
 どこか自嘲気味な声で。何を言っているんだろうと帝人は静雄の言葉の意味を理解できずにいた。
 静雄が力の制御を忘れそのまま暴れたら。災害とさえ言われる暴力を、怒りを、一人その身に受けたら。
 最悪な結末を想像して帝人は小さく震える。純粋な恐怖だった。
 しかし恐怖と同時に期待を抱く。痛いこと面倒なことは嫌だなと思いながらも少し骨を折られるくらいならいいかなと思ってしまう。
 異常なまでの非日常への憧れ。歪んでいる。そう思いながらも、そんな自分に気付きながらも、帝人は異常な自分を正常な害の無い一般的高校生の自分の中に閉じ込めた。
「あ、静雄さん、甘いもの好きですか?」
「甘いもの?」
「アイス食べましょう、コンビニ目の前ですし買ってきます」
 ガードレールから離れてコンビニを指差し、帝人は何がいいですか? と明るい声で暗い雰囲気を吹き飛ばすように状況を把握できていない静雄に問う。
「静雄さん、静雄さんだったら僕骨の一本や二本くらい構いませんよ、粉々にされたり背骨折られたりしたら困りますけど」
 貴方だから。愛すべき非日常な貴方だから許せると心の中で帝人は微笑む。
「受け入れます」
 過剰な保身も非日常を前にしてしまえば意味のないものだ。やっと手に入れた非日常を手放してしまうくらいならば。
「僕は普通の人間です、でも静雄さんだって人間です、だから気にしないでください」
「竜ヶ峰」
「何食べましょうか」
「……一緒に行く」
何か言いたげな静雄に帝人はふにゃりと微笑んだ。何もおかしところなんてない、普通の男子高校生として。そうすれば静雄が何も言えなくなることを帝人は知っていた。

「僕は今のままの静雄さんが好きですから」
 帝人は非日常に憧れ愛す心とは別に、静雄を恋しく思う感情があることに気付かないふりをしている。
 静雄は非日常だが歪んでいない。その純粋さが好ましい。
 だから、日常でありながら歪んでしまった自分になど気付かなくていいのだと帝人は笑った。
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