4主=カイン 「……で?」 「はいっ」 アルドは笑顔で目の前の少年に丼を差し出した。 「だからこれは何だって言ってるんだよっ!!」 「マグロだって、リーダーが釣ってきたんだよ、凄いよねっ!」 ふわりと、邪気の無い笑顔でアルドはテッドに笑いかけた。 元々お人よしの性格のせいか、その笑顔に一瞬眩みかけるが何とか衝撃をやり過ごしテッドは口を開く。 「……そうじゃない、いきなり部屋から呼び出されて、なんだこれは?」 「テッドマグロ好きでしょ?」 「っ!?」 マグロの丼を持ったまま立っていたテッドの肩に、突然ひょっこりと顔が現れた。 テッド自身が一番驚いていたが、驚いたのは彼だけではなかった。 「り、リーダー!?」 「やぁアルド」 突然音も気配も無く背後をとられたテッドの動揺に比べたら微々たるものだが、音も無く気配も無く突然テッドの肩から顔を出したカインに周りの者は皆驚いていた。 船首であり軍主である少年は、そんな人々に数十分前甲板でそうしていたのと同じようにひらひらと手を振る。 丼を胸の前で両の手のひらで抱えたテッドは満足な抵抗をするタイミングを失い、固まっていた。 やがて、きりきりと軋む音が聞こえるんじゃないかという動きで首を己の肩に頭を乗せている少年の方へと向ける。 傍から見たら、距離数センチの位置で見詰め合っている二人はテッドが手に持っている丼さえなければ色々な意味で怪しい光景であった。妖しいではない、怪しいだ。間違ってはいけないポイントである。 「好きだよね、マグロ」 にこりと数センチ先の少年の目を見ながらカインは笑った。 「……お前……」 「頑張ったんだからもうちょっと嬉しそうな顔してよね、キカさんも手伝ってくれたんだから」 予想外の人物の名前に、再びテッドと周りにいた人々は驚いた顔をした。 「心して食えよ」 現在周りを驚かせている中心人物が、風のようにテッドの肩を叩きながら去っていく。いや、風というより嵐だった。とても良い笑顔だった。(良い笑顔だったことに間違いは無いが、いつもの表情とあまり変わらなかった) アルドは一人「リーダーもキカさんかっこいいね!」と場違いなことを口にしていたが。 「好きだよね、マグロ」 周りの生温かい目に晒されながら、テッドはとても嬉しそうな顔で笑いながら去っていく軍主を睨みつけた。 睨みつけることしかできなかった。(それはたしかに自分を思っての行為だったから) |