4主=カイン









軍の最高権力者、カインと女海賊キカが並んで釣りをするという不可解な光景がそこにはあった。
軍主は船の縁に座りながら釣り糸を海へと垂らし、足をぶらぶらとさせている。
女海賊は真剣な目で海と釣り糸をを睨みながら釣り竿を握っている。

もう一度言う、不可解な光景である。
海賊キカの仲間であるシグルドとハーヴェイなど、悪いと思ってはいても未知なる物を見る視線しか主に向けることが出来ない。
カインの昔からの友人である騎士団メンバーは、またか、といった目でカインの姿を見ているが、他の乗員たちは完全にシグルド、ハーヴェイと同じ視線を二人に向けていた。

「カイン落ちるなよ!」
「へーいき、平気!」

カインの保護者役であるケネスから、危なっかしい体勢で釣りをするカインに注意が飛ぶ。
ひらひらと片手を竿から離し手を振る姿にケネスはさらに心配を強めたが、横から感じる仲間達の「カインには何を言っても無駄」という視線に口を噤んだ。
それもそうだ、実はカインは一度海に落ちている。
学習しない奴だな、とケネスはため息をついた。


「キカさんどうです?」
「すまないが話しかけないでくれないか?」
カインはひらひらとケネスに振っていた手を竿に戻し、隣で真剣に魚と向き合うキカを見た。
そうしてさらりと何も気にせず問いかけた、の、だが。
返ってきた予想以上に真剣な声音に、カインは吃驚した目でキカを見る。
何となく、その言葉に青い服を着た無愛想な少年のことを思い出しくすりと笑った。
「む、何がおかしい」
「いえ、ちょっとした思い出し笑いです、というかキカさん真剣ですね」
「あぁ……お前が真剣だったものでついな」
「釣れますかね……」
「釣るんだろう?」
カインはにキカに視線を向けると、その言葉に柔らかくふわりと笑った。
そして「もちろん」と言うと再び竿に海に視線を戻す。

「海は俺の味方ですよ」

凛とした目で海を見据える少年が、予想外の引きに縁に必死に足を掛け、目当ての大物を釣り上げるまであと24分と32秒。
無愛想な少年の部屋にふわふわとした雰囲気を持つ青年がカインに頼まれ突撃するまで、あと25分18秒。


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