4主=ラズロ
流刑後無人島にて。







海を見ていた。果ての無い青を。
君の目は、ラズロの目は、海の青だね。と言っていた友人達の顔をラズロは思い出す。
今はもう居ない人たちの顔を思い出す。
事実上裏切られたのであろう大好きだった不器用な彼。いつも自分の味方だった優しいエルフの少女。こんな無愛想な自分と友達になってくれたタル。
今はもう傍にいることが叶わない友人達。

ラズロは小脇に抱えた木を抱えなおし、海から視線を外し草の茂った道を下り始めた。
もうすぐ青に朱が混じる。生々しい赤を思い出させる朱ではなく、オレンジの綺麗な朱が。
ラズロはその色が好きだった。とてもあたたかい気持ちになるその色が。
もう少し粘れば、その朱を深い海のような青い目に映す事も出来るのであろう。しかしラズロの考えの中に、このままその場で海を見続けるという選択肢は無かった。

罰を受けた。
逃れることの出来ない罰を。
何に対してなのか、分からない罰を。
スノウに裏切られ、ラズロは全てを失ったと思った。
大切なものなど、彼以外にいなかった。
スノウは卑怯なのではない。ただ人以上に臆病なだけで、不器用ながら自分の兄のような存在であろうと頑張ってくれていた彼のことが、ラズロは素直に純粋な気持ちで好きだった。
必要以上を欲しがらないラズロが彼にだけは必要以上に好かれたくて必死に頑張った。
小間使いの分際で、と鼻で笑うのは簡単だっただろう。拒絶するのも簡単だっただろう。
しかし、スノウはラズロが頑張れば、「偉いね、凄いねラズロは」と笑って頭を撫でてくれたのだ。
成長するにつれてそんなやり取りは減った。主にスノウが領主の息子の立場というものに過敏になったことで。
スノウは卑怯なのではない、ただ人以上に臆病なだけで。
スノウに裏切られたと知ったときラズロは大きなショックを受けたが、今こうして道を下るラズロの頭の中にあるのはほんの少しの寂しさだけだ。
彼のことを諦めたわけではない。必ず彼の元に戻る、必ずまた彼と共に歩くのだと決意を固めただけで。

(信じています、ラズロ)
(絶対に死ぬんじゃないぞ)

流刑執行直前、友人にかけられた言葉を思い出す。

(俺達も一緒に行くぞ)
(絶対にラズリルに帰ろうね!)

流刑船で生きることを諦め、ただ死を待っていた自分に付いてきた友人達が言った言葉をラズロは思い出す。
あと、偶然だが付いてきてしまった、しかしまだ自分と共にいるネコボルトの言葉を。
大丈夫、まだ歩ける。
「……早く行こう」
ふるふると考えに浸っていた頭を振る。


今まで気づかなかったが、大切なものを、歩くための理由を、ラズロは両手に抱えていた。
空に、海に、朱が差す前に。
あたたかなその色を大切な友人達を見るため、ラズロは歩く早さを早めた。


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