「女でも綺麗だろうね」
「いきなり何の話し?」
突然飛び出すティルの言葉にも慣れたラズロだったが、慣れただけで意味が分かるわけではない。ティルも深く考えずに口に出している言葉なので分かるほうがおかしいのだ。そう考えると、グレミオは何を言ってもほぼ正しく意味を理解してしまったのはおかしかったのか、と今になってティルは思う。
「ラズロは、女でも綺麗だろうな、と思って」
「それは男に言う台詞かな?」
「男だから女なんだろ?」
「そうだけど、何に影響されたの」
頬杖をつきラズロを見る目は純粋だ。特に何も考えていない。本当にふっと思い浮かんだだけなのだろう。しかしそれを思い浮べる原因があるはずだ。
原因、というと悪いことのような気がするがティルの何気ない言葉が悲劇を呼ぶこともある。
ついこの前はナナミを探すリオウに、宿屋のバイトの男と歩いていたよと言ってリオウの入れなくてもいいスイッチを入れた。ただ見たままを言っただけなのだが、あの後処理が大変だっただろうリオウの軍師の顔を思い出しラズロは少しだけ同情した。
「本に、君がたとえ男であろうと私は君を愛す、みたいな台詞があって」
「それがどうなれば私が女でも綺麗になるの」
「ラズロの性別が逆なら女、でもそれなら愛しても普通じゃないかと思って、それにラズロならどんなラズロでも愛せる自信がある」
「まぁ異性になるしね、でも君最初私のこと嫌ってなかった?」
「過ぎた話だ、それで、ラズロが女ならどうなんだろうなと」
「それで最初の言葉に繋がる?」
頷くティルを見て、くだらないと口に出さなかった自分を誰かほめてほしいとラズロは思う。そして恋人であろうと男に綺麗と言われて、ティルは意識していないのだろうがラズロだから愛していると言われ照れている自分には誰も気付くなと思う。
末期だな、と思いながら縫い物の糸を切った。
「はい、できたよ」
「ありがとう」
リオウに手を貸すのはティルだけで、ラズロは城で留守番だ。
基本的にティルは戦闘で派手に暴れるためあちこち服を破いて帰ってくる。時にはどろどろに汚れて帰ってくることも。戦闘の時だけは普段の品の良さが嘘のようで、しかしまさに将軍の息子といった感じだ。
物理攻撃は避けれても、魔法攻撃は駄目なのだと小さく笑うティルからラズロは服を剥ぎ取っていた。
「あんまり無理しちゃ駄目だよ」
「気を付ける」
ラズロは魔法に関しては自信がない。何よりティルはラズロが戦うことを望まない。過保護、自分にも守らせてくれればいいのにとテッドの敵としてティルを見ていた時を思い出しながら思ってしまう。今ならいくらでも手を貸すのに。
しかし同時に、純粋に大切だから守っているという気持ちは少しくすぐったくてどうしようもなく嬉しい。
「饅頭作ってるんだ、食べるでしょう?」
「もちろん」
「飲み物は何がいい?」
「ホットミルク」
英雄とは思えない可愛らしい注文。英雄だって人である、それが偏見だとしてもラズロの頬はゆるんだ。
「わっ」
頭を撫でれば、ティルは子供扱いしないでくれと目で訴えてくる。身長から上目遣いになり、そんなに迫力はない。
「可愛いなぁティルは」
「それは立場的に僕に言わせてくれない?」
予想外の言葉にラズロが曖昧に笑えばティルは溜息を吐く。それでも自分の頭に乗る手をどうこうする気はないらしいティルに、もう一度ティルは可愛いとラズロは呟く。
「じゃあ、僕のこと愛してる?」
「じゃあ、ってなに」
子供が母親にねだるような純粋さと、少しの悪戯を込めたような目でティルはラズロの手から抜け出し問い掛けた。にこりと完璧な笑顔を見せるティルに、今度はラズロが溜息を吐く。
「愛してるに決まってる」
「僕も愛してる」
恋人としての甘さなど欠片しかないが、他に大切なものを沢山込めた愛の告白にお互い小さく笑った。










ほのぼのを全力で間違えた気がします。うちのほのぼのはぐたぐたしてる感じです。

リクエストありがとうございました!

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