リオウとナナミはティルの手を引き出かけていった。部屋に残ったのは二人だけ。その片割れであるラズロは、お茶を入れるねと台所に引っ込んでしまった。



「なんだかすみません突然」
「いいよ、ティルも嬉しそうだったし」
ティルはリオウとナナミに対し困ったような顔をしながらも、仕方がないなと笑う顔は嬉しそうだった。
見た目は十五か十六の子供だが、実際ティルはもう二十歳を過ぎている。小さいと思っていた子が大きくなるわけだと、目の前で紅茶を飲むジョウイを見てラズロは笑う。不思議そうな顔をしたジョウイに、何でもないよと言って。ラズロは空になったティーカップにおかわりを注いだ。
少女だとばかり思っていたナナミは女性になり。まだまだ少年だと思っていたジョウイは立派な男になった。ただ一人、リオウだけは変わらない。
「最近リオウの様子はどう?」
「落ち着いてます」
「そっか、よかった」
リオウは盾と剣をひとつにすることを望んだ。強い力を求めたわけでも、守るための力を求めたわけでもない。奥さんと養子がいるのに、そんな物騒なものは持ってないほうが良いでしょ。と、今日の夕飯はシチューだからねといった口調でさらりとリオウは口にした。それがティルやラズロの前だったのは、真の紋章を宿すものとして頼られたからか。
結果、ジョウイが押し切られた形で盾と剣はあるべき形に、はじまりになった。
はじまりを宿してしばらくの間、リオウは酷く精神が不安定だったが今はナナミとジョウイの支えで完全といっていいほど落ち着いている。
「戻るの?」
「え」
「ジルさんとピリカちゃんのところに」
驚いたような顔をして、ジョウイは困ったように笑う。何で分かるのかと問えば、ラズロはただ笑うだけで何も答えない。
そろそろ彼女達のところに戻ってもいい頃だ。ジルの夫としては、そろそろ戻らなければまずいと言える。
それをリオウとナナミに伝えれば、リオウが突然マクドールさんたちのところに行くと言いだし、今に至る。
ジョウイはリオウとナナミを裏切った。リオウもジョウイを裏切った。たとえ和解していようと、リオウにはリオウの意地がある。
「幸せにね」
ジョウイとジルとピリカの幸せを潰したリオウは、その一言が言えない。リオウとジョウイ、二人の幸せを。三人一緒の幸せをずっと願ってきたナナミに言わせるのも切ない。だから代わりに。
「は、い」
「ねぇ、あらためて結婚式しない? 私ドレス作るよ」
私たちの前で、あの子たちの前で笑ってあげてとラズロは言う。
ジョウイは彼女達のために生きていく。ナナミも、やがてリオウやジョウイではない、他の誰かのために生きていくだろう。はじまりを宿したリオウは、一人取り残されて。
「リオウは私たちに任せてよ」
今頃ティルはリオウに泣き付かれているだろうか。ナナミはそんなリオウを見て慌て、姉らしく宥めるのだけれど。結局、一緒に泣いてしまうのだ。
「愛されてるね」
ジョウイは、その言葉に俯いて。そして小さく頷いた。



(お祝いは……ああそうだ、ケーキがある、食べる?)(ケーキ、ですか)(うん、誕生日なんだ)(誰の?)(さぁ?)









和本様お誕生日おめでとうございます!


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