現代パラレル。










今年も終わるねと呟かれた音は、冷たい空気の流れる部屋の古い壁に吸い込まれていく。暖房器具は炬燵しかないという部屋なのに窓は少し開けられており、今も冷たい風が出入りしている。
空気が淀むよ、閉め切りは良くないよと。よく風邪を引くテッドを気遣ったラズロの言葉が原因なのだが、寒いのも良くないのではないのかとテッドは炬燵に体を半分以上突っ込んでいた。半纏までしっかりと羽織っているがそれでも寒いらしい。
情けないなあとラズロが溜息を吐くがそう言うラズロも部屋の中だというのにマフラーを巻いている。二人は寒さに弱い。
お互いの姿を見て笑いながらテッドはもぞもぞと炬燵から顔を出した。
「ティル達どうしてるかな」
「さぁ? ティルはまだお偉いさん達の相手だろうしリオウはお姉さん達と初詣に行くんだって言ってたし、ファルに関しては暫く前から連絡が取れないし」
「あの王子様はなぁ……あの国なら今日なんかはお祭り騒ぎだろうな」
「だね、テッド蜜柑食べる?」
「食べる」
二人きりの年明けは珍しいものではない。お互い独り身だし家族もいない。家族に近い人たちはそれぞれの生活がある。
小さな部屋を占領する炬燵に入りながらラズロの作った年越し蕎麦を食べて、ティルがくれた蜜柑を食べながら0時になったら二人で新年を祝う言葉を口にするのだ。
「今年は私達も初詣行く?」
「行きたいのか?」
「ううん、そういうわけじゃないけど、むしろ行きたくないかな」
「……そうだよな」
「……寒いもんね」
どこか遠い目で暗い窓の外を見つめながら、淡々とした声で吐かれた言葉は冷たさを持って、古い壁に吸収されること無く風に乗って窓の外に流れていく。
青い目がどこまでも鋭利な光を宿しているのを見てテッドはラズロに蜜柑を投げた。
「いたっ」
「痛いわけあるか、蜜柑だぞ」
見事頭に当たった蜜柑を拾い上げたころにはラズロは全てがいつも通りになっていた。それに内心ほっと息を吐き出しながら、テッドは蜜柑の皮をむく。口の中に放り込めば甘酸っぱい味がじわりと広がった。さすがティルが持ってくるだけあってとても良い蜜柑のようだ。ラズロも蜜柑を頬張りながら幸せそうな顔をした。
「テッド」
「んー?」
「良いお年を」
「……良いお年を」
ラズロはにこにこと嘘くさい笑顔を浮かべる。それを見て正直に顔を歪めながらテッドは小さく言葉を返した。


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