「お誕生日おめでとう、ティル」
「おめでとうございます」
ラズロに続いてリオウが祝いの言葉を紡ぐ。たとえ二人の視線が目の前でいい匂いを漂わせるパンプキンケーキに向けられていたとしても、ティルは何も言えない。自分も同じくパンプキンケーキに思わず視線を向けてしまうからだ。
「ありがとう、……ラズロは相変わらず料理が上手だね」
「毎回力作ですよね」
「ハロウィンにあわせてかぼちゃにしてみました、あったかいうちに食べようか」
「あ……」
可愛らしくデコレーションされたそれに、容赦無くラズロは包丁を入れた。ティルとリオウから同時に落胆の声があがる。
「料理は食べてこそじゃないか」
「そうだけどそれでも躊躇とか戸惑いとか……」
「たしかにそうですけど、マクドールさん綺麗なものとか好きですからねー……僕もその切りっぷりにはびっくりしましたけど」
「自分の料理に戸惑いとかは生まれないなぁ」

ティルからの「派手にしないでくれと」いう要望で、ティルの誕生日はラズロのリオウの二人で小さく祝うことになった。きっと今頃ティルの故郷。英雄の故郷では英雄の誕生日が派手に祝われているだろう。
これから何度あるのか分からない誕生日なんてとティルは言ったが、ラズロが即その言葉を否定し、ケーキまで焼き始めたことからティルも観念し大人しく祝われている。誕生日なんてと言いながらも、祝福の言葉を贈られたティルはとても嬉しそうな笑みを浮かべた。
「君は人の生を生きる限りちゃんと誕生日を祝わなきゃ駄目だよ」
「ラズロも人が生きていていい歳の時は祝ってた?」
「私の場合祝ってくれる人が居なかったからね、でも旅先で祝ってもらったことはあるよ」
「いいですねー、僕の誕生日も祝ってください、孤児なんで日が曖昧なんですけど」
「海に流されたし、私も実際の誕生日は曖昧だよ」
「さり気なく不幸な会話をしないでくれないかな、僕の誕生日に」
切り分けられたケーキを食べながら明るく、一般的に不幸だろうといわれる話をする二人にティルは溜息を吐こうとする。が、横からラズロの手が伸び溜息を吐く前に口を塞がれた。
「今日は溜息禁止ね」
「ティルさん溜息多いですよねー、幸せが逃げちゃいますよ?」
「誰のせいだと……」
口を塞いだ手に息が当たってくすぐったいとラズロが笑う。悪ふざけしてリオウがフォークにケーキを突き刺し「ティルさんあーん」という言葉と共に差し出してきた。口を塞がれているのに目の前にケーキ。何だろうかこの状態は。
「どんな誕生日だ」
「嬉しいでしょう?」
相変わらずくすくすと笑いながらラズロの手が離れる、にこにこと笑うリオウがさらにずいっと差し出したケーキに食いつきながら、ティルも笑った。


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