「お祭りムードだね」
「……凄い格好だね」
背後から声をかけられ、ティルは内心驚くが声を聞けばすぐに落ち着いた。その人に気配が無いのはいつものことだ。
しかし、その姿を見てティルは思わず口篭る。結果的にらしくない間が空いた。
声も立ち振る舞いもいつも通りだが、金の髪は長く腰下まであり、緩くウェーブがかかっている。普段は黒を基調とした服を好んで着ているが、今日はゆったりとした布地の多い白い服を着ていた。
「ウンディーネだよ、水を司る精霊、ここのハロウィンは何でもありなんだね」
「主催者がリオウだからね、よく似合ってる、髪色もあんまり変わらないし」
「基本的に女性の衣装なんだけどなぁ、ティルは仮装しないの?」
ラズロは双剣使いということもあり、基礎がしっかりとした体をしているので普段の服なら女性に間違えられることは無いだろう。しかし顔は女性寄りだ。
体のラインが隠れる服を着て可愛らしく首を傾げると、その顔を見慣れているはずのティルでさえ一瞬目の前の人物が誰なのか分からなくなる。たしかに声も顔もラズロなのに不思議だ。
「しない」
「折角のお祭りなのに、ほら、右手のその子にちなんで死神の衣装で練り歩けば? 私なら実際の年齢的に練り歩ける歳じゃないけど君ならまだいけるでしょ?」
「洒落にならない」
「死神って私は悪い存在じゃないと思うんだけどな、魂が彷徨わないように導く存在ともいわれるんだし、じゃあ化け猫にでもなる? 獣耳と尻尾つけて」
「何が、じゃあ、だよ、何でそう僕がやりにくいものを薦めるんだ」
大きく溜息を吐けばラズロはくすくすと笑う。いつも通りだが、ティルたちを囲むカボチャとラズロの衣装がいつも通りではない。
はじめは質素に、いつの間にか派手に飾り付けられた城とはしゃぐ軍主と、それを見て嘆く軍師を見たのはつい最近だ。この城の主であるリオウは祭り事を好む。この戦いが多い世界で息抜きをする事と、自分にとって都合の悪い事が起きないようにするのがとても上手い。戦争なんてしていなかったなら、もっと派手に行われただろう。
「お祭りなんだから楽しまなきゃ、ね?」
その言葉と共にティルの視界が奪われる。視界を遮ったそれは白い布のようだが、布にしては重い。
「何……これ」
白いローブ。描かれているのは炎だろうか。首の辺りに大きな鎖がついているのを見て重たいのはこれかと納得した。
「フードを目元を隠すように被って松明もどきを持って練り歩いてね」
「これ何の仮装?」
「霧の船の案内人?」
「……?」
理解できないという表情を浮かべるティルにラズロは微笑むだけ。羽織ったローブはぴったりだった。


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