「これどうすればいいの……?」
「がちゃがちゃしてればいいよ」
「がちゃがちゃ……」
戸惑った声に気軽に返せば、少し緊張気味の真面目な声が聞こえる。こそりと様子を窺えば、ティルは真剣な表情で器の中の生クリームを混ぜていた。
くすりと笑っても今のティルは気づかない。本を読んでいる時と同じ目をしている。
ラズロは適度にやわらかいメレンゲの中に、砂糖と水を熱して作ったシロップを垂らし手際良くかき混ぜる。そういえばあれを準備していないとラズロが棚に手を伸ばした瞬間、背後からうわっ、という悲鳴が聞こえた。
「どうしたの?」
「はねた……」
手についた生クリームを舐めながら、慣れないことはするものじゃないと呟くティルを見てラズロは頬がゆるむのを抑えられない。可愛いと思って、思わず口に出さないように気をつける。最近二人での生活に慣れ甘えが出てきたせいか、あまりからかうと拗ねるのだ。
「完成するかはティルの頑張りだから、頑張って」
ゆるんだ頬を引き締めて、にこりと遠い昔テッドに胡散臭いと言われた笑顔で言葉を紡ぐ。ティルに、その笑顔怪しいとぼそりと言われて、関係も何もかもが違うのにどうもテッドをを思い出す、とラズロはいつも通りの笑顔で笑った。
「ほら、頑張って」
「ん」
がちゃがちゃと規則的な音が部屋に響く。そんなに広くない部屋には、大きく響くが耳障りではない。ラズロが視界に入れた時はまだ生クリームはとろとろとしていたが、ティルは本当に無駄としかいえなところまで器用なので心配しなくても大丈夫だろう。
慣れないことに奮闘するティルを微笑ましく思いながら、ことこと煮ている桃の様子を見る。匂いに慣れてしまってあまり感じないが、近づけばやはり甘いいい匂いがした。
「上出来」
「むー」
「頑張って」
「頑張る」
おいしいお菓子のため、と完全に生クリームに集中したティルを確認して。そうだ、とラズロは再び棚に手を伸ばした。


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