テッドの日記念。 「……いいよな、葡萄って」 ほぅ、と夢見る乙女のような表情で葡萄に手を添えるテッドを見て、ティルは眉をひそめる。正直男がやっていい仕草ではない、可愛い女の子や女性がすべきだ。しかしティルは事実を決して口にしない。 「テッドそんなに葡萄好きだったけ」 「うまいもんは何でも好きだぞ」 「そういう奴だよねテッドって、早く帰っておいしく食べよう」 せっかくグレミオがケーキを焼いてくれるんだからとティルが微笑めばテッドもいつも通りの笑顔を見せる。 「でもちょっと摘み食い」 「駄目だよ」 「本当にお坊ちゃんだなぁティルは」 「今日はテッドが主役なんだから、早く帰ろう」 何も語らないテッドに、勝手に決められた誕生日。おいしいものをたくさん食べれるようにと毎年違う日に。誕生日じゃないじゃないかとテッドは笑うけれど。 「んー」 「言った瞬間に食べてるし……」 「いつ何があるか分からないんだ、いいだろ、な?」 「一生のお願いだよ、でしょう?」 「……さすがに摘み食いに一生はないな」 「……そうだね」 帰るか、とテッドが葡萄の入った籠を持つ。テッドが片手に抱えるのに比べ、ティルは両手でしっかりと抱えていた。テッドはどうもそんな些細なところに自分とティルの違いを感じると溜息を吐く。 「テッド?」 「生きてる世界が違うなと思ってさ」 「……テッド?」 「なんだティル?」 そろそろ潮時なのかもしれない。帰るかとテッドは明るい笑顔を見せたが、ティルは不思議そうな顔をするだけで笑ってはくれなかった。 「本当に、賢い奴だよな、ティルは」 「……うん?」 「賢くて鋭くて、ずるいんだティルは」 「僕は、テッドのほうがずるいと思う」 ティルはずるいという言葉と瞳がどうにも真っ直ぐで、テッドは霧のようにぼんやりとしていて。 「本当にずるい」 帰ろうか、帰るか、と呟かれた言葉にお互い返事は返さなかったが二人並んで森から抜け出した。 |