二周年企画 | ナノ






最近、葵の様子がおかしい。

こいつの為なら人も悪魔も、神様だって滅ぼしてやる。そんなレベルで辰巳が溺愛する妹に違和感を感じるようになったのは一週間ほど前から。
学校から帰れば部屋に籠り、飯の時は食欲がないとぼやき、武術の鍛錬の時ですら心ここにあらず。
おかげでこの頃は張り合いがなくてつまらない。そしてそれ以上に、心配である。

「お前、何かあったのか」

学校が休みの日曜日。相変わらずの呆け具合で、ロクに興味もなさそうな昼ドラを視聴中の葵を捕まえて問いただす。
返って来たのは「んー」という気のない返事。

「別に何にも」

おいおい、お兄ちゃんはお前を心配して心を痛めてるというのに!その"相手すんの面倒"と言わんばかりの態度は何だ!
燃え上がる憤怒を悟られぬよう、辰巳は努めて穏やかな口調で続けた。

「何でもって事はねぇだろうが。組み手で相手しても全然手応えねぇし。学校で何かあったか?」
「煩いわね。アンタには関係ないでしょ」

ぷつん、と。葵のぶっきら棒な物言いに、辰巳の中で何か大切な物が音を立てて千切れた。
そうかそうか。お兄ちゃんが気を利かせてお前の悩みを解決してやろうと思ったのに。お前はそういう態度を取っちゃう訳か。
ニタァと気味の悪い笑みを浮かべ、辰巳はのそのそと二階の自室に引き上げて行く。かと思いきや、両腕一杯のアルバムを抱えてすぐに戻ってきた。
机の上に置いたそれらの内の一冊を手に取ると、適当なページを捲る。そして未だにテレビから目を離さない彼の妹に一言。

「7歳、おねしょ」
「ッ!?」

ビクンと肩を震わせる葵に、辰巳のニタニタ笑いは一層邪悪さを増して行く。

「布団の上に描かれたモナリザの絵。ありゃ傑作だったなぁ?」
「ちょ、ちょっとアンタ……!」
「9歳。旅行先の水族館でナマコが怖いと号泣。ぶっちゃけ今でも怖い」
「うわぁぁぁぁぁぁ!!!」

一枚一枚、ページを捲りながら、妹の黒歴史という黒歴史を丁寧に一つずつ掘り返して行く。
悲鳴を上げながら飛びかかって来た葵を難なくかわしながら、辰巳の悪魔の如き所業は続いた。

「10歳。心霊番組を見て怖くなり、夜中に俺のベッドに侵入。あろう事かその朝にお漏らし――」
「分かった!分かったから、何が目的なの!?」

頬は真っ赤、おまけに涙目で睨み上げてくる葵にキュンと胸が高鳴った。
いや、違う。そういうキュンじゃない。断じて違う。小動物の愛くるしい姿とかに感じる、そういうキュンだ。

「何かあったんだろ?兄ちゃんに吐かないとこの写真を出血大サービスでそこらじゅうに配る」
「この……鬼畜兄貴!」
「ははは、心外じゃねぇか。シスコンと言えや」
「どっちもどっちよ!」

最初からお前に勝機など無かったのだ、愚かで可愛い妹よ。辰巳は意地悪くせせら笑った。

「で、言うの?言わねぇの?」
「………言うわよ。言えば良いんでしょ」

ようやく観念しやがったか!
勝利の余韻に浸る辰巳。しかし次の瞬間に葵の口から飛び出た衝撃の事実に、そんなくだらない物は跡形もなく吹っ飛んだ。

「告白されたの」
「………ん?」
「先輩に告白されて、返事どうするか悩んでる」
「………悩んでる?」
「良い人だし嫌いじゃないし、友達からも"試しで付き合ってみれば?"って」
「………ほう」

辰巳自身、自覚はあった。今の機嫌は今年度に入ってから最大級の豪快な急降下っぷりだ。
しかし可笑しな話ではないか。遠い昔に、葵に下心を持つ健全な野郎諸君は一人残らず始末した筈だというのに。
世の中命知らずな阿保が多くて困る、と辰巳は首を振った。

「学校の先輩か。名前は?」
「何でそんな事を気にするのよ。アンタには関係ないでしょ」
「写真」
「古市貴之先輩です」

古市。どこかで聞いた名だと思ったら何だ。同じクラスの、親愛なる我が下僕じゃないか。
だったら話は早いと携帯を取り出す兄を見て、葵は一人首を傾げた。




兄の処刑だ




(ふーるいーち君っ、あーそーぼーっ)
(ごめんなさいごめんなさい!おまぁァァァァァ!!!!)










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