進撃の巨人 | ナノ



その日、アルミン・アルレルトの元に飛び込んだのは二つの、衝撃的な報せだった。

一つ、エレン・イェーガーが心臓の病を原因に、息を引き取った事。
二つ、何十年と破壊が叶わなかったアニ・レオンハートの水晶体が消滅した事。

「……エレン、アニ」

部下に伴われ現場に赴いたアルミン。
そこで見た光景に一度唾を飲み込み、そして落ち着いた口調で命じた。

「すまないが一人にしてくれないか」

困惑しつつも大人しく命令に従い、部下達は古い地下室を後にした。
残されたアルミンはその場に蹲ると、いくつもの深い皺が刻まれた顔に穏やかな微笑みを浮かべる。

「二人とも……なんて幸せそうな顔をして死んでるんだよ」

固く冷たい床一面に飛び散った水晶の欠片。
その中心にエレンと、そして水晶に閉じこもったあの時のままの姿のアニが横たわっていた。
その様はまるで寄り添い合うようにも見える。アニの小さな手は、床に投げ出されたエレンの皺だらけの手にそっと重ねられていた。


今日はいつもと変わらない一日だった。
年老いて兵団から退いたエレンの日課は、既に人々の記憶からも忘れ去られかけたこの地下室に通う事であった。
いつもと変わらず、水とパンを持って「アニに会ってくる」と部屋を出て行ったエレンの背中が鮮明に思い出せる。

エレンにもアニにも、致命傷と成り得る傷は一つも見当たらない。
二人して、まるで自分達から望んだかのような安らかな顔で息絶えている。

「……アニには会えたのかい、エレン」

エレンは口癖のように言っていた。
"もし俺が死んだ時は、あいつも一緒に連れて行く"のだと。

何年もその姿を変えることなく、不思議な水晶に守られ続けて来た筈のアニは何故死んだのか。
水晶が砕けた事が体に何らかの影響を与えたのか。それとも或いは閉じこもった時から死んでいたのか。
どちらかは分からない。もしかすれば、どちらでもないのかもしれない。

ただアルミンは強く確信していた。
アニを連れて行ったのはエレンであると。今頃二人は遥か遠くで寄り添い合っているのだと。

「良かった。ようやく幸せになれたんだね」

たくさん泣いた。
大切な人を失った時や裏切られた時。彼等が流すのはいつだって悲しみと怒りの涙だった。
けれど最後にエレンとアニの二人が流した涙が、きっと違う。今、アルミンの流す涙だってそうだ。


どうか、死も超えたずっと先で、二人が幸せでいられますように。












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