進撃の巨人 | ナノ



「アニぃ……」

耳元で名前を呼ばれてアニは目を覚ます。
一番に視界に入ったのは先月買ったばかりの新品ピカピカのデジタル時計。セットしたアラームが鳴るにはまだ早すぎる早朝の時間だ。

上体を起こそうとすると、何かに後ろから拘束されているのか全く動く事が叶わない。
首を捻って後ろを見やれば愛しい同居人の間抜けな寝顔。さっき呼ばれた名はこの男の寝言らしい(ここに彼以外の男がいればそれはそれで大問題だ)。
ともかく、今自分は彼に後ろからガッチリとロックを掛けられている状況にある。完璧なまでの絞まり具合、流石は我が一番弟子……などと誇っている時ではない。

「エレン」
「んぁ?」
「起きなよ。もう朝だ」
「うーん……」

背を向けたまま声をかければ、返ってくるのは眠くてたまりませんとばかりの唸り声だけ。
あぁ、これは駄目だな。熟睡しきっている。同居して日は浅いが、それでも彼の寝起きの悪さを悟るのには充分であった。
エレンを起こす事を諦め、アニは大人しく彼の腕の中に納まった。何だかんだでまだ眠い。

「アニ………」

もう一度呟かれる寝言。あまりにも密着し過ぎている為、エレンが言葉と共に吐いた吐息がダイレクトに耳にかかる。
たまらずアニは布団とエレンの腕の下で身を捩らせた。そんな彼女の状況を知ってか否か、エレンは更なる追撃を仕掛ける。

「ひぅっ」

不意にお腹の辺りを襲った、ひんやりと冷えた感覚。
シャツをまさぐり、アニの白く艶めかしい肌を執拗に触れ、撫で、揉んでくるこの手の持ち主は本当に寝ているのだろうか。
無骨で男らしい彼の手がいよいよ臍を通り越し、指先がその上にそびえ立つ双丘をかすめた時、アニはいよいよ強硬手段に出た。

「起きなっての、エレン!」
「いっ……ででで!?」

卑猥な動きでお腹の上を這い回るエレンの手を捉え、腕ごと捻り上げてみせる。
耳元で上がる驚きと苦痛の叫び。やかましい、まだ朝は早いというのに。

「何すんだよ……っ」

腕の拘束が緩んだ隙にゴロンと寝返りを打ち、エレンと向かい合う。
目尻に涙を溜めた彼は抗議の視線でこちらを見下ろしていた。けれど謝ってやらない。だって絶対そっちが悪い。

「別に、何でも」
「何でもねーのにこんな事すんな……。くそっ、まだ寝れるじゃねーか」

欠伸交じりにそう言うと、エレンは性懲りもなく、今度はアニの背中に両腕を回した。

「おやすみ」
「……は?」

アニの肩に顔を埋めたエレンは程なくして微動だにしなくなった。少しずつ大きくなるのは彼の寝息。
コイツ、まだ寝るつもりか――と呆れ果てるアニだが、そう言えば彼は昨日、仕事からの帰りが遅かった事を思い出す。

「……大目に見てあげるよ」

本当に寝ているのか疑わしい。力一杯抱きしめてくるエレンを負けじと抱きしめ返し、アニもまた微笑みながら、僅かに燻る睡魔へと身を委ねた。




幸せ者




(げっ、寝坊だ)
(アンタの所為だからね)
(何で!痛ぇっ、蹴るな!蹴るなってば!)










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