進撃の巨人 | ナノ



「好きなんだ――お前の事が」

彼に告白された時、私の胸中はただ閑散と静まり返っていた。
驚きはしなかった。まるでずっと前からこの時に備えていたかのように心は冷静だった。
私は彼の想いを知っていた。知ってはいたが、一度たりともその想いと向かい合う事がなかったのだ。

「御免なさい」

答えは決まっていた。否、これ以外にあり得る筈がない。
私が好きなのはエレン。傍にいて欲しいのも、笑って欲しいのも、護ってあげたいのも全部エレンだ。彼ではない。
だから彼に心を許す必要はなかった。許すつもりもなかった。

「ジャン、貴方の気持ちには応えられない」

その言葉は、まるで以前から決めていたかのようにスラスラと口を突いて出た。
迷いなんてない。私の答えはただ一つ。私が頷く相手はエレンであって彼ではないのだから。

「そう、か」
「…………」
「そうだよな。そっか、分かった」

返事を聞いた彼の表情が呆けたように見えたが、それはほんの一瞬の事だった。
取り乱しもしなければ悲しみもしない。まるでこうなる事が分かっていたかのよう。
何がおかしいのか笑顔まで浮かべる彼は今、何を想っているのだろう?

「すまねぇな、ミカサ。休憩時間に呼び出して、こんな話を聞かせちまってよ」
「……いえ」
「何か白けちまったな。本当にすまん。今の話は――」

彼の言葉はそこで途切れた。笑顔だった筈の彼の顔に、不意に苦悶の色が混ざるのが見える。

「……それじゃあ、な。明日からもよろしくな。その、普通の同期として」

そう、そうだ。私と彼は同期。共に訓練時代を過ごし、今は調査兵団の仲間である。それ以上でもそれ以下でもない。私と彼の間にはそれ以外何も存在しない。

――それなのにこの胸の疼きは何。

じわりじわり。彼の顔に見た微かな苦悶の色を思い出すと、胸が焼けるように痛む。心が軋み、悲鳴を上げる。
私にはエレン以外は有り得ない。それ程までに私の中でエレンと言う存在は大きすぎる。エレンが傍にいてくれるなら他の人なんてどうでも良い――筈、なのに。
どうして、どうしてどうして?どうして私は泣いている?何の為に、誰の為に?一体誰を想ってこの涙は流れている?

「――ジャン」

ねぇ、ジャン。貴方はきっと知っていたのでしょう?
私の答えを。私の気持ちを。貴方には他人を理解できる力があるから、知らなかったわけがない。
それなのに何故――どうして?どうして貴方は、答えを知った上で。報われない想いなどの為に、私にあんな事を言ったの?

「……ごめんなさい」

本当にごめんなさい。貴方の気持ちに応える事が出来なくて。
そしてありがとう。こんな私を好きになってくれて。こんな私なんかを想ってくれて。

救われない貴方の想いに手を差し伸べる事は決して出来ないけれど。
せめて、せめて覚えておくから。忘れないから。貴方が私を想ってくれた事を、そして。

「嬉しかったわ――ジャン」

私の一番はエレン。それ以外は必要ない、私にとっての全てがエレン。
しかしこの時だけは、今だけは違う。この涙は貴方の為だけに流そう。
報われない貴方と。そして地に落ち沈んで行くだけの、救われないこの想いの為に。




流したのは涙








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