悪魔と少女と | ナノ







エクソシスト西方支部。
普段は所属するエクソシストや役人、職員達でごった返す広大なこの城も、夜の帳の下りたこの時間帯は人気もなく静まり返っている。

下の食堂で遅い夕食を取って来た古市が執務室に戻ると、部屋の隅に明かりが灯っているのが見えた。

「あれ、邦枝さん。まだ残ってたんですか」
「古市君。ちょっと大切な資料忘れちゃって」

微笑む葵の表情は一切の疲労を感じさせない程に穏やかだ。
古市が彼女の手元を覗き込むと、そこには机の上に散乱した無数の資料。

「今度の討伐作戦で私が指揮する部隊のメンバー表。明日までに目を通しておかなくちゃいけなかったの」
「あぁ。そう言えば邦枝さん、第二奇襲部隊の隊長でしたっけ」

あれだけ激化の一途を辿っていたベルゼバブとアスタロトの争いは、最近になって驚くほど沈静化しつつあった。
精々下級クラスの悪魔数体がいざこざを起こす程度で、以前の様な街を巻き込む様な大規模な戦闘は一切起きていない。
しかしこれにて一件落着、等という簡単な話ではなかった。

監視部隊の報告によれば、ベルゼバブ、アスタロトの両軍の悪魔達が、それぞれの拠点に結集中との事だ。
つまり、両軍とも次の戦いで敵勢力を完全に叩き潰すつもりという事。
大陸でも屈指の勢力を誇る悪魔軍同士の総力戦。どれだけの被害が出るのか想像も出来ない。
西の地は今、未だかつてない程の恐怖と緊張感に支配されていた。

「仕事熱心なのも良いですけど、そんなに詰め込んでるといざって時にぶっ倒れますよ」
「古市君だってここのところ残業続きじゃない」
「俺は良いんですよ。面倒事押し付けられるの慣れてますから」

諦めたように笑う古市の目元には、真っ黒な隈が色濃く刻まれている。
葵と違って彼は今回の戦線では後方のバックアップを務める事になっている。だからと言って前線で戦う者より負担が少ないという事でもない。

「何か手伝える?」
「いえいえっ!邦枝さんと夜遅く二人っきりってのは美味しいシチュエーションですけど、今回は遠慮しときます」

至極残念そうに言って古市は笑ったが、やはりその顔は酷くやつれたものだった。









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