悪魔と少女と | ナノ







葵が退院したのはそれから二日後の事であった。
古市は別件の任務があるからと、あの後すぐに街を旅立ってしまった。
葵はこの後、夕刻にこの街から出る特急列車で西支部に帰還する予定だ。
しかしその前に、どうしてもしておきたい事があった。

(まだこの町にいるなんてとても思えないけど)

もう一度、オーガ……ではなく、男鹿辰巳に会いたいと思った。
宿敵である悪魔に進んで会いたいと思うなんて正気の沙汰じゃないと自分でも思う。
けれどあの行動の真意を――何故自分を護ってくれたのか、その理由が聞きたかった。
それにあの悪魔は自分には危害を加える事は無い。危険ではない。
そんな根拠のない自信が葵の中にはあった。



******



「随分静かね」

ひとまず例の現場に戻ってみる事にした葵。
しかし本来なら人と活気で溢れるメインストリートも、今ではほとんどの店が閉められ、人気もない。
向こうの方で壊れた道路の復旧作業をする人達が見えるが、それ以外では警備に当たる兵が何人かいるぐらいだ。
あんな事があってまだ日も浅いのだから、仕方の無い事かもしれない。
あの時、自分がもっと被害を食い止められていたら。正義感の強い葵は、当然のように自己嫌悪に駆られていた。

「あら、あの時のエクソシストさん」

声をかけられたのはそんな時だった。
振り向けば、あの夜立ち寄ったパン屋の女店員クレアが箒を手に立っていた。

「あ、パン屋さんの」
「奇遇ね!あの時は本当にありがとう。貴方のおかげで助かったわ」
「いえ、無事で何よりです」
「貴方があの悪魔やっつけたんでしょ?やっぱり凄いわね、エクソシストって」
「あはは……」

インドラを葬ったのは本当は自分ではなく、あの無茶苦茶な悪魔の青年なのだが。
話したところで信じてくれないだろうなと思い、笑って誤魔化す。
話題を反らす意味もあり葵は尋ねた。

「お店の方は大丈夫ですか?」
「えぇ。奇跡的に被害を受けないで済んだわ。今日からまた開店したんだけど、流石に客足は減っちゃってね」
「すぐに戻りますよ。あそこのパン、凄く美味しいですから」
「嬉しい事言ってくれるわね。あぁ、そうだ。助けてもらった御礼にまたタダで譲ってあげるわ」
「え!?でもこの前だってコロッケパン……!」
「遠慮なんかしないの!ほら、入った入った!」

結局押し切られる形で、葵はクレアに店の中に引っ張り込まれてしまった。









[prev:next]
[top







人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -