悪魔と少女と | ナノ







うっすらと開けた視界は、途端に真っ白な光で一杯に満たされる。
眩しさに呻いて反射的に顔の前に手をかざそうとしたが、何故か動かない。
不思議に思っても目が眩んだままでは何も確認のしようがなかった。

「お、気付きました?」

すぐ近くから聞こえて来た聞き覚えのある男の声。
段々と目が光りに慣れて来ると、自分のすぐ隣にニコニコと笑顔を浮かべた銀髪の男が座っているのが見えた。

「古市君……?」
「インドラの討伐、ご苦労様でした。邦枝さん、もう四日も眠りこんでたんですよ」

インドラ?討伐?
古市の出した言葉の中に、葵は何か引っかかる物を覚えた。
途端に甦って来るあの夜の光景。
破壊された道路。異形の悪魔。そして自分を背に、その悪魔と対峙する青年。

「あぁっ!!」
「え!?何!?」

突然ベッドから飛び起きた葵に、弄っていた通信機を取り落とす古市。
そんな事はお構いなしに、葵は彼の襟元をむんずと掴んで引き寄せた。僅かに古市の頬に朱色が差した事には気が付かない。

「古市君、インドラは……!あの後どうなったの!?」
「イ、インドラは邦枝さんが倒したんでしょ!?違うんですか!?」
「倒……した?」

違う。インドラを倒したのは私じゃない。
葵は自分を庇うかのようにインドラと向かい合っていたあの青年の姿を思い出した。
今度は黙り込んでしまった葵に、古市は丁寧な口調で説明する。

「俺達が着いた時にはもうインドラは消滅した後で、邦枝さんは重傷でこの病院に運ばれてました」

周囲を見回してみれば、白を基調とした清潔感のある部屋。
成程、彼の言う通りここは病院らしい。しかし新しい疑問が浮かび上がる。

「私、どうやってここに?」
「居合わせた一般人が運んでくれたそうですよ。インドラを倒した後、邦枝さんも倒れたって話ですけど」
「一般人……」
「えぇ。どうかしたんですか?」
「……ううん。何も」

心配させたのか、表情に不安の色を滲ませる古市に、葵はふっと微笑みかけた。

「ごめんなさい。ちょっと記憶が曖昧で」
「謝るのは俺の方ですよ。あんな化け物、貴方一人に相手させてすいませんでした。それにしても、よく解毒剤なんか持ってましたね」
「解毒剤?」
「医者の人に聞きましたよ。邦枝さんの体、かなりやばい毒に侵された形跡があったって。それの所為で倒れたんだって」


――俺の尾は先端から致死性の毒が垂れ流しにされてんのよ。掠っただけでも傷口から入り込み、とんでもねぇスピードで全身へと巡る猛毒がなぁ!

戦闘中、毒に侵された自分にインドラが吐き捨てた言葉。
自分は解毒剤など持ち合わせていなかったし、飲む暇もなかった。

「……えぇ。ラッキーだったわ」

小さく呟きながらベッドに横たわり、枕に顔を沈める葵。
また来ますね。そう言って立ち上がった古市を見送りながら、彼女はあの紅い眼の悪魔の青年を思い出していた。









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