「ヒルダ様」
灯りのない薄暗い部屋に忽然と響いた声。
窓際で窓から洩れる月明かりを頼りに読書をしていた金髪の女は、視線も動かさずその声に返事を返す。
「アランドロンか」
「は」
蝿王・ベルゼバブ直属の悪魔、ヒルダの直ぐ傍に跪く巨体の影。
笑いを狙っているのか、或いは素なのか。その男はトランクス一丁という、悪魔から見ても人から見ても規格外な風貌の持ち主であった。
「どうだった」
「無事オーガ殿を発見致しました。ベルゼバブ様からの言付けは全てお伝えしました」
「それで奴は何と」
「“始まったら呼べ”との事です」
「……そうか」
浅く息を吐いたヒルダは詩織を挟んだ本をパタンと閉じ、窓の外に浮かぶ白い三日月を見上げる。
そのまま黙り込んでしまった彼女にアランドロンがおずおずと尋ねた。
「如何なさいますか?」
「好きにさせておけ」
答えるヒルダの口調は酷く興味なさげであった。
「いつもの事だ」
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