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きらきらと目を輝かせた古市が早速とばかりに葵に尋ねた。

「先輩!その写真の美人さん、誰なんですか!?もしかしてお姉さん?」
「違うわよ。姉じゃなくて母。私のお母さんよ」
「お、お母さん?」

予想の斜め上な回答に言葉を詰まらせる古市。
一方で男鹿は何となくそんな気がしていたのか、妙にすんなりと納得した。
かつて首切り島で邂逅した斑鳩酔天と葵のやり取りが脳裏に甦る。

「へぇ。綺麗な人なんですねー」
「何言ってんの。昔の写真よ?確か私が小学生だった頃に撮ったヤツだから……」
「もしかして一緒に映ってた子って小学生の頃の邦枝先輩っスか!?ちょ、もっかい見せて下さい!」
「何言ってんだ、ロリコン!」
「鼻息荒くして姐さんに近づくな!」

本当に鼻息を荒げて迫る古市を、先代総長の危機に立ち上がった烈怒帝瑠が叩きのめす。
真昼間から学校の教室で繰り広げられる惨劇を止めようか悩んでいる葵に、男鹿がぽつり、と問いかけた。

「お袋さん、まだ帰ってねぇのか?」
「え?」

何故、男鹿がその事を?
そう思ったのも束の間、首切り島で酔天に両親の不在の件を話した時、彼もその場にいたんだと思い出す。
葵は苦笑いをして首を横に振った。

「いいえ、まだ帰って来てないけど。どうして?」
「大変じゃねーの?」
「え、家の事?どうかしら……もう馴れちゃったしなぁ」

顎に手を当てて思案する葵を、男鹿はじっと観察するように見つめた。

魔王の親に選ばれ、学校生活ではデーモンだの子連れ番長だのと恐れられる男鹿だが、そのプライベートは驚く程に“普通”なのだ。
両親はサラリーマンと専業主婦。姉は凶暴ではあるが、大学に進み将来の為の勉強に励む一学生である。
父親がお金を稼ぎ、母親が家事をこなし、未成年の姉弟は学校に通う。この平和ボケした国ではとても“普通”な家族の光景。
最近はそこに魔王と侍女悪魔が転がり込んで賑やかになったが、それでも不良が襲って来る事もない自宅では、男鹿はただのゲームが好きな普通の少年だった。

そんな普通の境遇に育った男鹿だからこそ、葵の少し変わった家庭事情は興味をそそられると共に、理解しがたいものであった。
“普通”の学生である男鹿にとって、母親とはご飯を作り、学費などのお金を払い、その他家事全般をこなす……何より基本的には子どもである自分の近くにいてくれる存在である。
しかし何とも不思議な事に、葵の傍にはその母親がいないのだという。
世の中には様々な事情を抱え、両親と離れて暮らす子どもなど五万といるが、周囲を平凡な環境に囲まれて育った男鹿にはどうにも現実味のない話だ。
ご飯は自分で作っているのか?自分達と違って生真面目な彼女は勉強だってしているだろうに。洗濯や掃除は?光太の世話だってあるし、神社の手伝いをこなさなくていけない。

「苦労してんなぁ、お前」

普段滅多に使わない頭を使い葵の苦労を解した男鹿は、そうぽつりと呟くのであった。









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