べるぜバブ | ナノ






ひらり、ひらり。
薄っぺらい一枚の紙が男鹿の足元に舞い落ちる。
視線を上げると、長く美しい黒髪が目の前を過ぎるのが見えた。




彼と彼女の家庭事情




「あん?」

平和に安眠を貪るベル坊の髪を撫でていた手を一旦止め、足元に落ちた紙を拾い上げる男鹿。
手にとって見ると、それは一枚の写真だった。
だいぶ昔の物なのだろうか。所々擦り切れ黄ばんだその写真に映っているのは、男鹿が良く見知った人物だった。

「……邦枝?」

長い漆黒の髪は、現在隣の席で次の授業の準備をしている邦枝葵のそれと全く同じだ。
だが写真に映る女性は彼女よりもずっと大人びており、優しげな頬笑みを携えたその顔立ちは、基本女性を“異性”として意識する事のない男鹿ですら美しいと感じる。
そんな邦枝葵に似た容姿の女性は小学校低学年ぐらいだろうか、見覚えのない女の子と抱き合っていた。
こちらも邦枝葵と同じ、色あせた写真でも分かる艶やかな黒髪の持ち主だ。

――邦枝、じゃねぇよな?

興味深い写真に首を傾げる男鹿。
そこに後ろの席で早弁に興じていた古市が話しかけて来た。

「男鹿ー、さっきから何見てんだよ?」
「……この写真なんだけどよ」
「写真?うわ、すげー美人じゃん!」

首を伸ばし写真を覗き込んだ古市は、男鹿の予想通りの反応を見せた。
だが美女だの大和撫子だのと騒ぐ古市も、すぐに男鹿が感じたのと同じ違和感に気付いたらしい。

「あれ?その人、邦枝先輩に似てね?」
「お前もそう思うか。でも邦枝よりも大人っぽいっつーか、似てるっつーか」
「瓜二つじゃん。邦枝先輩に」
「私が何?」

自分の名前を呼ばれ振り向いた葵に、男鹿は例の写真を差し出す。

「これ、オメーのだろ?」
「あっ、それ!落としちゃったのね……。拾ってくれてありがとう」

葵は礼を言って、受け取った写真を大事そうに手帳に挟んだ。









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