べるぜバブ | ナノ






*性的描写注意





白い悪魔




情事の後に感じる、この緩やかな気だるさを古市は気に入っていた。
ほんの少し前まで淫らな騒音で煩かった部屋はすっかりと静まり返っている。口さえ閉じていれば、聞こえるのは時折家の前を通る車の音ぐらいか。

「古市、寒い」

静寂を破ったのは布の掠れる音と、くぐもった彼女の声。隣に視線を移せば、毛布の端から覗いた碧色の瞳が開けっ放しの窓を睨んでいた。

「すいません、毛布もう一枚いります?」
「それよりも窓を閉めてくれないか」
「嫌ですよ。だって、ほら」

窓の向こうの夜空には見事な満月が眩しい程に輝いている。欠片一つない、見事な満月。
綺麗だなぁ、と古市は嘆息した。お高い所で偉そうに輝いているのがヒルダさんそっくりだ。制裁覚悟で言ってみたが、別に暴力を振るわれる事はなかった。
特別固くもない古市の胸板に、ヒルダの細い腕が交差して絡みつく。つつつ、と彼女の指先が皮膚をなぞる。こそばゆい感覚に古市は身震いした。

「古市、私を見ろ」

耳元で悪魔が囁く。魅力的だが危険な声音だ。言われるがままに彼女と向かい合えば即座に唇を重ねられた。食らいつくように、貪るように。ヒルダの激情に任せた接吻を古市はただただ受け止め続ける。

「私の前で、私以外の物に見惚れるな」

唇と唇は離さないままヒルダは言った。普段と変わらない命令口調だが、古市にはそれが必死な懇願に聞こえる。古市は短く笑った。

「何それ、お月様に嫉妬してるんですか?」
「どうもそうらしいな。呆れたか?」
「ははは……まっさか」

離れかけていた唇を今度は古市が捕まえる。

「寂しがり屋なヒルダさんとか、可愛すぎ」

あぁ、ほらまた――あの厭らしい卑猥な音がやって来た。
二人の舌と舌が触れ合い、舐め合い、絡み合う度にぴちゃぴちゃと粘着質な音が響く。そのまま毛布の中で転がり回り、マウントポジションを取る古市。
豊満な丘を鷲掴み、先端の突起を執拗にこねくり回す。ヒルダが感じ易いのか古市が上手いのか、どちらかは定かではない。だがいつも決まって先に理性を失うのはヒルダの方であった。

「んっ、ふ……っ」
「………ッ!」
「あ、あっあっ!たか、ゆ、きぃっ!」

ヒルダが古市をファーストネームで呼ぶ時、それは彼女が快楽に呑まれ始めた合図だ。
抑えきれない色艶めいた悲鳴が古市の欲望を激しく揺さぶる。一度は消えた筈の熱が古市の全身を駆け抜け、徐々に思考が働かなくなる。
片手で彼女の乳房を揉み砕く一方、もう片方の手で彼女の太腿を撫で繰り回せば、細い身体がベッドの上でくねり跳ねる。徐々に乱暴になる古市の攻めに比例し、ヒルダの嬌声もその高さを増して行った。

「ヒルダさん、もう、限界?」
「ん、まだ……あ、はぅっ!」
「まだ大丈夫なの?……じゃあ、もっと激しくても良いねッ」
「えっ、あっ、ダメ―――んんっ!!」

強く気高い彼女が今、欲望のままに声を上げて俺を欲している――信憑性のない、けれど確かなその事実が、何よりも古市の熱を昂ぶらせる。

「たかゆき……――っ」

目尻から涙を流したヒルダが古市の首に腕を回し、霞んだ声でありのままの欲望を訴えた。

「……っせて」
「な、に?」
「お願い……いかせて」

初めてヒルダを抱いた時、古市は酷く驚いたものだった。
己の腕の中で悦楽に浸り身を捩る彼女は、自分達人間と何も変わらない。性欲という本能に踊らされる、ただの女の子だと。
寧ろ――その女の子の理性を崩し、乱し狂わせている自分こそ真に悪魔と呼ばれるべきではないのか。

「良いよ……イって、ヒルダ」

たまらなく愛しい少女の願いに頷き、悪魔は意地悪く笑って見せた。










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