べるぜバブ | ナノ
ほっせぇ腰だな。
初めて葵を抱き締めた男鹿は、得体の知れない、不可思議な気分になった。
木刀で人を吹き飛ばしてしまうような女の腰に回した左腕は、余裕で長さが余っている。持て余した左手は悩んだ挙句にそっと、葵のわき腹に添える事とした。
「……折れそう」
「え、え?なに?」
「何でもねぇ」
正面から抱き寄せているという体勢から、必然的に男鹿の口元は葵の耳に近い距離にある。真っ赤だ。
芽生えた小さな悪戯心。ふっと軽く息を吹きかけてやれば、腕の中で震えていた彼女の体がびくりと跳ねた。
「ひあっ」
「ぷっ。お前、たまに面白い声あげるよな?」
「何すんのよ馬鹿!ってか、いつまでこうしてる気!?」
「あー?……俺の気が済むまで?」
果たしてそんな時が来るのだろうか。言った男鹿自身も不安になった。
少しちょっかいをかけただけであの可愛らしい反応だ。きっとこの先、飽きる事などないかもしれない。
前方に体重をかければ、物理的な力に耐えかねた葵はただ、されるがままに押されるのみ。
白いシーツに沈んだ細い体躯を目に焼き付け、男鹿は強烈な欲望に駆られた。欲しい、俺の物にしたい、俺だけの女だ。
「や、だっ……男鹿」
「お前さ、見え透いた嘘付く前に鏡見てみろよ」
葵は腰も細ければ、腕や手首、足まで細かった。
やせ細っているという訳ではない。程よく肉の付いた、健康的な体。
ヒルダのそれとは比較にならないものの、自分にはない胸の膨らみが、男鹿の性的欲求を執拗に刺激する。
何より、紅潮した頬に涙で潤んだ瞳が、葵を魅惑的な"女"に仕上げていた。
今、ベッドの上で転がっているのは石矢魔の女王ではない。
強く凛として、そして気高い彼女がこんな情けない醜態を晒す事があるものか。
葵の"女"を引きずり出しのは他でもない自分だと、男鹿は自覚していた。そして自分の"男"を目覚めさせたのが、彼女の"女"であるとも。
「阿保みたいにエロい顔してるぜ……なぁ、邦枝」
ふるふる、とひたすら首を横に振る葵は恐らく気付いていないのだろう。
自らに覆い被さる男の背中に回されたのは他ならぬ彼女の腕。男鹿を離さぬよう、懸命に力を込めている。
立てられた爪が与えてくる刺激に、男鹿は理性を手放した。
征服欲
髪の毛の一本から、そのはしたない嬌声まで。全部全部、俺のモンだ。
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