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*学パロ




高校一年生の時、僕は一人の先生に恋をしました。




銀色片思い




「失礼しまーす」

2、3度適当にノックして引き戸を開くと、むわっとした生温い空気が頬を打った。
確かに今は川も凍っちまうような真冬だが、これは明らかに暖房が効き過ぎだ。オマケに昼休みという事もあってか、授業の準備に忙しい様子の教師達でごった返している。
ったく。暑いどころかあの人を探すのも精一杯じゃねぇか。
だが幸いな事に目的の人物はすぐに見つかった。
彼女の目立つ金髪は目の保養になる他にこういった時にも役立つ。

「ヒルダ先生」
「あぁ、来たか古市」

英語教諭のヒルデガルダ――通称ヒルダ先生は職員用のデスクに向かい、何やら作業に勤しんでいた。
声をかけると宝石のように綺麗な輝きを放つ碧色の瞳がこっちを見据える。
あぁ、今日も綺麗だなー。鼻の下が伸びそうになるのを抑えるのに必死だぜ。

「授業が始まる前にこれを配っておいてくれ」

そう言って差し出されたのは彼女お手製の単語プリントの束である。

「うげぇっ。また課題っスか」
「サボった者には冬休みはないと思えと伝えておけ。……まぁお前には関係ないかな」

堅かった表情にフッと浮かんだ柔らかな微笑に息が詰まりそうになる。
英語の課題を欠かさず提出するのも、英語係に志願したのも、二学期からの選択科目で英語を選択したのも、全部この魅惑の英語教諭に惚れているが故の事だ。
おかげで定期テストから始まって授業中に行われる小テストに至るまで、常に学年で上位に食い込む程の成績を誇っている。

「今回も期待しているからな」
「任せて下さいッ!」

期待している。
彼女にとっては何気ない言葉でも、俺にとってはこれ以上勉強に対するやる気を起こす起爆剤はないだろう。
つい有頂天になってしまったのだろうか。勢いに任せて思い切った提案をしてみた。

「次のテストでもし学年10位以内に入れたらデートして下さいよ」
「戯言を抜かすな」

それなりに勇気が必要だった申し出をバッサリ断られて絶句。

――しゅ、瞬殺かよ。

授業が始まるぞと急かされ、しょんぼりと肩を落として職員室を出た。


半ば追い出されるように職員室を追い出され、生徒達で賑わう廊下をとぼとぼと歩む。
動揺してはいなかった。増してや照れている訳でもなかった。
真剣に受け止められなかった。所詮は子どもの戯言だと、ふざけているのだと。

或いは好意には気付いているが、単に俺がそのような対象として相手にするには値しないってトコか。
彼女程の美貌ならしつこく言い寄る輩なんて掃いて捨てる程いるだろう。
彼女の世界で自分はそのような群衆に紛れた一人に過ぎないんだろうか。

「……ふざけんな」

廊下を進んでいた足を止め、唸るように呟いた。
ギリッ、と噛みしめた歯が軋む。

違うよ。違うんだ。
俺は美人だからとか、乳がでかいから。そんな下心だけで貴女に近づいてるんじゃない。
――否、確かにそれも重要な要素ではあるけれども。

でも、それでも俺が好きなのはヒルダ先生なんだ。
クールで厳しくて怖いように思えるけど、俺達生徒の事をちゃんと考えてくれて、時折見せる笑顔がたまらなく可愛い先生が好きなんだよ。
けれどそれを、一体どうやって彼女に伝えれば良いんだろうか。


うんうん悩んでいるといつの間にか人気のなくなった廊下に聞き慣れたチャイムの音が響き渡る。
その後の英語の授業はもちろん遅刻。ご立腹のヒルダ先生から放課後の居残り罰則を言い渡された。

「この課題終わったら俺と夕飯食いに行きません?」
「惚けた事を抜かすな」

やはり、速攻で断られた。









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