べるぜバブ | ナノ






白い雲の流れるブルーハワイ色の大空。
そこに輝く太陽は絶え間なく灼熱の日光を降らせ、それに熱せられた砂も洒落にならないレベルで熱い。
鼻をつく磯の匂いに鼓膜を震わす荒波の音。そう、夏です。海水浴です。

「よーし、ベル坊。鋏に注意するんだ。分かったか?」
「アイ!」
「おっしゃ!第二ラウンド……ファイッ!」
「ダブシューっ!」

波も僅かしか届かないような浅瀬で、水飛沫を上げながら取っ組み合いを繰り広げるのはベルちゃんと蟹。
蟹っていうのはそう、赤くて鋏が合って横歩きのアレ。砂浜をちょこちょこ横切っていたのを男鹿が捕まえて来た。これがベルちゃんにとっては中々の強敵であるようで。

「ダ〜!」
「ベル坊ぉぉぉ!踏ん張れぇぇ!コイツを倒さねぇとノコギリクワガタと同じ土俵にゃ立てねぇぞ!」
「アイ〜!」

怒った蟹に追い回されベルちゃんは大パニック。今にも泣きそうなベルちゃんを見て男鹿も大パニック。
平和だなぁ……なんて一瞬でも微笑ましい気分になった自分が恐ろしい。

「……ちょっと男鹿」
「あぁ?今取り込み中だ!」

声をかけ、名前を呼んだってこの有様。
あぁそう。アンタの中では私<<<ベルちゃんって位置付けな訳?
そりゃ、この二人が固い絆で結ばれてるのは知ってるし、いつだってどこだって一緒だ。
でももう少し――ほんのちょっとで良いから、私に構ってくれたって良いんじゃない?

「ったく、もう」

あらかさまに溜息を付いたって男鹿は気付きやしない。そもそもそんな遠回しの感情表現が伝わる程度に彼が敏感であれば、最初から苦労しない。

――週末に海行くからよ、一緒にどうだ?

夏休み直前。あってないような終業式の日に男鹿から直接誘われ、それは舞い上がるような気持ちだった。
千秋達に見立ててもらって水着も新調したし(だいぶ恥ずかしいデザインのものを半ば強制的に買わされたが)、お弁当だって手作りで用意した。
少しでも女の子として見て欲しいから――滅多にないチャンスを、無駄になんて絶対にしたくなかったから。

「……ムカつく」

何だかこれまでの苦労を思い出したら、異様に腹が立って来た。
「ん?何か言ったか?」と惚け面で抜かすこの野郎め!

「くらえっ」
「ぶはっ!?」

足元の水を両手一杯に掬い上げると、それを思いっきり男鹿の顔面にぶちまけてやる。
完璧に油断していた彼。思わぬ奇襲に悲鳴を上げ、その場に尻餅をついてしまう。その滑稽な様に思わず私は吹き出した。

「何すんだテメー!」
「うるさい、ばーか」
「あぁ!?ってテメェ、ベル坊どこに連れて行きやがる気だぁぁぁ!!」
「アイ?」

蟹相手にノックアウト寸前だったベルちゃんを抱き上げて砂浜をダッシュ。
後ろからは怒りと焦りに雄たけびを上げる男鹿が海水を蹴り上げながら追いかけてくる。
ほらほら、捕まえてごらんなさい……なんちゃって。




青春海色




(浜辺を男女二人で追いかけっことか……どんな青春!?)
(その赤い涙を拭けよ、古市)










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