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某晴れの日




三月も半ば。
冬の冷気は少しずつ影を潜め、それと入れ替わりに温かな空気が石矢魔の町を満たし始めている。
開いた窓から緩やかに吹き込む風が程良く涼しげで心地良い。
今日は快晴。実に気持ちの良い晴れの日だ。

「ダブゥ」

ベル坊も俺の膝の上でうとうとと目を閉じたり開いたりを繰り返している。
眠たければとっとと眠ればいいものを。寝たい時に寝れるなんて子どもの特権だぞ。

「く……うぅ……!」

ベル坊の眠気が移ったのだろうか、ふと気付けば口から欠伸が漏れる。
いっそ寝ちまおうかな。いや、このシチュエーションでそりゃ有り得ないだろ。こんな面白い光景、見逃すのも勿体ないし。

「……手伝うか?」
「いいっ!」

俺やベル坊とは異なり、彼女は春の陽気に眠気を感じる暇などないらしい。
暑くもないのに汗を垂らし、コントローラーを握る手は緊張からかプルプルと震えている。殺気すら込められた視線はテレビ画面に釘付けだ。

ベッドに背中を預けて寛ぐ俺のすぐ横で、座布団代わりのクッションの上に座る彼女は慣れないゲームに絶賛苦戦中だ。
いつもならそこは古市の居場所だ。こんな晴れた日でも俺達はこうしてお互いの部屋を行き来し、並んでゲームに熱中する。
と言っても古市と俺の距離はここまで近くないし、単に古市がゲームに取り組んでいるだけならここまで面白いと感じる事もなかっただろう。
ここにいるのが彼女だから、眠るのも惜しいと感じる程にこの光景がひどく愉快なのだ。

「あぁっ!もう!何で勝てないのよ!」
「近付き過ぎなんだよ。敵が変な鳴き声上げたらすぐに離れねーと、青いガスに触れたら速攻でお陀仏だぞ」
「だって、近付かないと狙えないじゃない」
「武器切り替えろ。ライフルあんだろ……そう、それ」

彼女はゲームに関してはドが付く程の素人で、ぶっちゃけなくとも下手くそだ。
手伝おうかと言えばさっきのように即答で拒否される。最初は乗り気じゃなかったくせにいつの間にか負けん気に火が付いたらしい。やっぱりこいつも石矢魔の生徒なのだ。
だから横で彼女の奮闘ぶりを見学する俺はちょっとしたアドバイスをくれてやるのに留まっている。
それに俺としてもほいほい手を出してこの状況を終わらせてしまうのは本望じゃない。
困ってる彼女が可愛いから……なんて言えば、古市のヤツからは性格悪いぞなんて言われそうだ。

「あ、あとソイツ火が弱点だから」
「火?火なんてどこにあるのよ」
「攘夷手榴弾ってあっただろ。投げると火が起こるやつ」
「あ……。さっき使っちゃった」

ついてないわね、なんて愚痴りながらも彼女はゲームの操作を止める事は無い。
だいぶ様になって来た。まだまだ俺や古市には遠く及ばないけどな。

「やった!勝った!」

なんて感心している間に遂に彼女はやり遂げた。画面の中では敵が無残な姿を晒している。

「どんなもんよ!」
「へぇ、素人のわりに頑張ったじゃねぇか。でもすぐにもっとやべぇの出て来るからな」
「え、」

意地悪に告げてやれば得意げな彼女の笑顔が一瞬で凍りつく。

「手伝ってやろーか?」
「……お願いします」

にんまり笑って申し出れば、彼女は観念して頷いた。
協力プレイも悪くない。彼女の返答に満足して、俺は予備のコントローラーを手に取った。










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