べるぜバブ | ナノ






「お姉さん、可愛い顔してるねー」
「巫女さんってヤツ?大和撫子って感じで超可愛いじゃん」
「ねーねー。暇ならさ、どこかご飯食べに行かない?奢るからさ!」

「………はぁ」

場所も弁えずいけしゃあしゃあと声を張り上げる不良共を前に、邦枝葵は重い溜息を吐いた。
石矢魔という町の性格上、こうした輩は毎年必ずと言って良い程現れるのだが、今回のは葵が今まで見た中でも特にタチが悪い。

――新年早々、ついてないわね。

と言うのも、葵はつい先日、恋人の男鹿辰巳と些細な事で喧嘩をしたばかりだった。

『あん?正月が空いてねぇ?』
『だってうちが神社なの知ってるでしょ?お正月は毎年忙しくなるからお手伝いしなくちゃいけないの』
『だってじゃねーよ!折角デートの予定立ててたのに全部パーじゃねぇかっ!』
『無茶言わないでよ!』

そんな感じで徐々にヒートアップし、最終的に喧嘩別れになってしまった。
それから今日に至るまでの数日間、男鹿とは一切連絡がとれていない。
モヤモヤとした気持ちを抱えたまま年越しを迎え、初日から参拝客で賑わう神社の手伝いをしていたらこの有り様だ。
全く幸先が悪いにも程があるではないか。

「ねぇ、俺達の話聞いてる?」
「……すみません。仕事があるので」
「えーっ!?そんなツレナイ事言わないでさぁ!」
「こんなシケたとこよりもっと楽しいトコ知ってるよ?」
「あの、他の参拝客の方々の迷惑になりますので……!」
「がはぁっ!!?」

募る苛立ちを抑えきれず、強い口調で注意しようとしたその時。
口に出した言葉は唐突に響いた破壊音と悲鳴に遮られてしまった。
まるでギャグ漫画のワンシーンのように寒空の彼方まで吹っ飛んでいた仲間に呆然とする不良達。
その背後に今年も絶好調なご様子の魔王の親子が迫っていた。

「すんません。俺の女なんで」

現れるや否や、問答無用で不良達をぶっ飛ばしてしまった男鹿。
唖然とする葵に向け、片手を上げて無愛想な口調で挨拶した。

「よっ」
「アダッ!」
「お、が……?ちょ、アンタ何で!?」
「何でって参拝だよ、参拝。何か悪ぃのか?」

惚けた表情でそう尋ねる男鹿はいつも通りで。
喧嘩してこのままお別れなんだろうかと不安になっていた自分が、途端に馬鹿馬鹿しく思えて来た。

「なぁ、邦枝」
「ん?」
「……明けまして、おめでと」

言い慣れていないのだろうか。
恥ずかし気に頬を掻いて視線を反らす男鹿が何だか可愛く思えて来て。

「うん。明けましておめでとう」
「ダブー!」
「ベルちゃんも、おめでとう」

幸先悪いなんてなんて贅沢な考えだったのだろうか。
好きな人が一緒にいてくれる。それだけでこの正月は、今までで最高のものだった。




2013.1月拍手





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