べるぜバブ | ナノ






ぷにぷに、ふにふに、もふもふ、もにゅもにゅ。

「古市ぃ?聞いているのかぁ?」
「き、聞いてます……聞いてますから……!」

お願いだから、俺から離れて!!
文字通り、執拗に絡んで来るヒルダに古市の心は悲鳴を上げた。



酔いどれ悪魔



その日は特別な事はない、至って普通の日だった。
普通に学校行って、普通に弄られて、普通に喧嘩に巻き込まれて、普通に帰って、普通に飯食って、普通に風呂入って。
パジャマに着替えてさぁ寝よう、と自分の部屋に戻ったその時、初めて普通ではない異変が起きた。

「待ちくたびれたぞ!長風呂とは女々しぃ奴め!!」

消した筈の電気が何故か付いていた自室の中央にどんと胡坐を掻いて座る、金髪のゴズロリ美女。
あれ、俺いつの間に男鹿の家に次元転送したのかな?

「ってそんな訳あるかい!」
「独り言か?にゃるほど、貴様もだいぶストレスが溜まっていると見える。だが喜べ!きょーは私が夜通し酒を共にし、話を聞いてにゃる!」

さて、どこからツッコミを入れて行こうか。

「……何やってるんですか。ヒルダさん」
「何をやってるか、だとぅ?見て分かりゃんか。貴様を待っているのだ」
「何で俺を待ってるんですか。つーか、どうしてこんな時間に俺の家に」
「えぇいっ!グチグチ煩い奴め!早くこっちへ来い!」

有無も言わさぬ凄まじい迫力。
とりあえず古市は手招きして来るヒルダの前に正座を作って座った。
それを見て満足げに鼻を鳴らすヒルダ。今度は脇に置いてあった大きな瓶を古市の前に叩き付けるように置く。
あ、床がほんのちょっと裂けた。

「……ヒルダさん?」
「何だ」
「あの、これは?」
「お義父様から失敬してきた高級酒だ。さぁ、にょむぞ」

言うや否やヒルダは蓋を開けた瓶を傾け、どこから取り出したのやら半透明のグラスに並々と酒を注ぐ。
強いアルコール臭に若干距離を置きながら、古市は冷静に事態の把握を試みた。

何故かヒルダは酒瓶とグラスを持ってて、頬は赤くいつもはきつく細められた眼はどことなくとろんとしている。声も呂律が回っておらず、やけにハイテンション。おまけに酒臭いと来た。これらの症状から判断するに彼女は……――。

「酔ってます?」
「酔ってにゃどいなぁぁぁい!」

何故か上げられる雄叫び。何故か振り下ろされる酒瓶。
理不尽な奇襲を古市は間一髪で回避した。男鹿や東条などの比にはならないが、彼もそれなりの運動能力の持ち主である。

「あ、あぶね!何するんですか!?」
「わたしは……酔ってにゃんか、いにゃい……ひっく」
「酔ってますよね。120%酔ってますよね」
「きさま……私が酒如きに呑まれると思うにょか?」

頭をクラクラ回されながら言われても全く説得力がない。
ヒルダが酔っ払っている事は否定の仕様がなかった。問題はどうして酔っ払っているのか、だ。

(男鹿の親父さんのを間違って飲んだとか?つか、ヒルダさんってお酒飲んでも大丈夫な年なの?)

見たところは全く大丈夫ではなさそうだ。
とりあえず男鹿に連絡を取って引き取りに来てもらおうか。
そう思って携帯を取ろうと腰を浮かばせた時、突然ヒルダが古市にタックルをかまし押し倒した。

「いぎゃぁ!?」

床に後頭部をぶつけた古市は奇妙な悲鳴を上げた。
その上に大胆にも跨るヒルダ。完全なるマウンドポジションだ。

「ヒ、ヒルダさん!?」
「……したい」
「はい?」
「えっち、したい」

頭が真っ白になる、とはこの事だろうか。
あまりの事に思考も行動もフリーズした古市に、ヒルダは遠慮の欠片もなく、ぐいぐいと身体を絡め、押し付ける。
胸板にくっついて離れない柔らかな物の感触に古市はようやく正気を取り戻す。

「な、何やってんですかぁ!?」
「えっちな事」
「え、え、え!?」
「さぁ、私を抱け!」

はっきりしなかった口調が定まり、艶やかで危険な色を含む。
ぶちっと鈍い音が聞こえたかと思えば、乱暴に引き裂かれるパジャマ。
これは、もしかして、襲われている?

「うわぁぁぁ!やめてぇぇぇ!」
「何をビビっておる。貴様が常日頃からしたいと思っている事だろう」
「そうだけど!そうなんだけどこれは突然と言うか!!」
「ごちゃごちゃと煩いヤツだ」

そう言って更に身を乗り出したヒルダ。
ぎょっとする古市の唇に、躊躇いもなく自分のそれを押し付ける。

「力づくで黙らせてやる」
「……はい」

怪しく笑うヒルダに、古市はもう何も言えなかった。




******




「どうしたよ、古市。何かヤケに疲れた顔してんな」

そこはいつもの通学路。
男鹿と並んで歩く古市は何故か朝から疲れ果てた、けれどどこか幸せそうな、不思議な表情をしていた。
古市はフフッ、と悲しげに笑って言う。

「男鹿ぁ……。夢っていうのは時に幸せで、時に悲しいものだなぁ」
「あん?何言ってんだ、お前?」

男鹿の問いには答えず、古市はただ悲しげに笑うだけだった。


それと時を同じくして、古市宅では古市母によって、古市のベッドからイカ臭い下着が発見されたという。










[prev:next]
[top







第3回BLove小説・漫画コンテスト結果発表!
テーマ「人外ファンタジー」
- ナノ -