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Cold night




うだるような蒸し暑い真夏はとうの昔に過ぎ去った。
季節は木の葉の色づく秋。夜になれば冷え込みを厳しいと感じる頃合いである。
人里離れた山奥の地ともなればそれは尚更で、冷たい外気に肌蹴た胸元が晒されると、葵は一度ぶるりと身を震わせた。

「さみーか?」

目の前で胡坐をかいて坐る男鹿に問われ「ううん」と首を横に振る。

「じゃあ、怖ぇ?」
「怖いって言ったらやめてくれるの?」
「無理」

思案する素振りも、迷う素振りも見せず。きっぱりと即答で断言する男鹿が彼らしくて、葵は苦笑を漏らした。

この空間に存在するのは彼等二人だけだった。
彼等の連れ子達はとうに寝静まり、今は隣室で仲良く夢の中だ。
広い和室の中央に敷かれた一枚の敷布団。その上でまるで対峙するように向かい合う二人の少年少女。
その間を隔てるように、僅かに開いた襖から差し込む一筋の月光が布団を横切っている。

「お爺ちゃんにバレたら怒られるだけじゃ済まないわよ」
「……そりゃ脅しか?」
「警告のつもりよ」
「どっちにしろ、いらねぇ世話だ」

葵の言葉を鼻で笑い飛ばした男鹿が勢いよく身を乗り出した。
月光の線が影に遮られ、あっけなく途切れてしまう。
すっかり冷たくなった布団の上で組伏せられながら、葵は月の光に照らされた男鹿の顔を見上げた。
綺麗だな。いつもの悪面とは打って変わって真剣な表情を浮かべた少年に、素直にそう思う。
自らの手を布団に縫いとめる無骨な彼の手はやはり冷たかった。
だが触れ合った二つの手の中に温もりが生まれるのを確かに感じ、妙な安心感に囚われた葵は間近に迫った男鹿に小さく囁いた。

「好き」
「おう、俺もだ」

本当にそう思っているのか疑わしい程に男鹿の声はあっさりとしていたけれど。
その言葉を口にした瞬間、彼が一瞬だけ浮かべた笑顔が葵にはたまらなく愛しく感じられた。
だから彼女は気にする事なく、愛する少年の熱に身を委ねる事にした。









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