バイオハザード | ナノ






その日はうだるような真夏日よりだった。
見上げれば雲の一つも見当たらない青空で、剥き出しの太陽がこれでもかと言わんばかりにさんさんと輝いている。
その光景があのアフリカの空と重なって見え、クリスは慌てて目を反らした。

「どうかしたの?」

可憐な声に視線を向ければ、少し前を歩いていたジルが振り返ってこちらを見ている。

「今日はやけに蒸し暑いと思ってな」
「そうね。アイスも買っておけば良かったかしら」

それぞれが買い物袋を抱え、取りとめもない会話を交わしながら並んで歩く。
数年前に彼女が失踪する前まではこんな事はクリスにとってごく普通の事だった。
そんな事でさえたまらなく幸せに感じる事が出来るのは、ジルを失う恐怖を一度味わったからなのだろうか。

あの夜、スペンサー邸の事件を境に姿を消した彼女。
きっと生きている、また会える筈だ。強く信じ抜くには、三年と言う時間はあまりにも長過ぎた。
それでもクリスは足掻き、もがき、死に物狂いで戦い続けて。
その果てにようやく彼女を見つける事が出来た。深い闇に囚われていた彼女を、取り戻す事が出来た。
今、彼女は自分の隣で頬笑みながら自分の話に相槌を打ってくれている。
綺麗な笑顔だ。彼女がこんなに魅力溢れる女性だなんて、どうして一度失うまで気付かなかったのだろう。
彼女が戻ってきてからというもの、クリスは自らの心情の変化に驚いてばかりだった。それが彼自身にとってはとても心地の良い物であるのだが。

「クリス、何考えてるの?」
「ん?」
「今の貴方すっごくおかしな顔してるわよ」
「……え、」

顔に出ていたんだろうか。
彼女が自分の隣にいてくれる――この事実に心から湧き上がる幸福感が。

「いや、幸せだなって思ってさ」
「嘘つくのが下手な所、相変わらずね」
「……嘘じゃないぞ」

そうだ。嘘なんかじゃないさ。俺は今、最高に幸せだ。
長い時の中、何かの拍子にころっと死んでもおかしくない戦場を走り続け、それでも今こうして最愛の女性と平和な世界を共にいられる。
例えその平和が一時の、ただの仮初に過ぎないものだとしても、俺にとっては贅沢過ぎる程の幸せだ。

「本当に幸せなんだよ」
「ふぅん?じゃあ何が幸せなのか言って御覧なさいよ」

何か隠し事されてるとでも思っているのだろうか。
唇を尖らせてご機嫌斜めをアピールするジルにこんな事を言えば、一体彼女はどんな表情を見せてくれるだろうか。




君が傍にいてくれるから




流石に恥ずかしいから言えそうにないけれど。









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