バイオハザード | ナノ






「やれやれ。最悪な展開だな」

そこは、北欧のとある街の一角。
無残にも塗装の剥がれた壁に背中を押し当てた男は、額に冷や汗を滲ませて舌打ちした。
見渡す限り見えるのは、生気のない白濁した眼光でこちらを見やる死者の軍勢。

「……泣けるぜ」



彼と彼女の在り方



ズガンッ!ガンガンッ!

銃声が鳴り響く度に、一人、また一人と倒れ、二度目の死を迎える屍達。
多くの戦場をかいくぐり、生き残って来たレオンの射撃は正確無比だ。
放たれた弾丸は逸れる事を知らず、確実に死者達の頭部にのめり込み、最早まともに機能していない脳髄を破壊して行く。

――数が少なければ、大した事は無いんだがな。

しかし現在の戦況は多勢に無勢。
いかに素早く正確に死者を撃ち倒しても、倒れた死者を跨いでまた新しい死者が現れる。
物量差が、圧倒的すぎた。

「逃げるが勝ちだな」

ほんの一瞬、行列を組む死者達の間に見えた退路。
マガジンが空になったハンドガンをしまい、アサルトショットガンを抜けば、強力な散弾が死者達の群れに穴をこじ開ける。
一瞬の隙を狙い、レオンはすかさず駆け出した。
掴みかかって来る死者を振り払い、蹴散らし、ようやく壊滅を免れたらしい一軒家に逃げ込んだ。

鍵を閉めたドアに背中を預け、乱れた呼吸が落ちつくのを待つ。
すると腰のホルスターから聞き慣れた電子音が聞こえた。
手に取った通信機のモニターには、長年の付き合いであるハニガンの顔が表示されていた。

『レオン。良かった、無事ね?』
「あぁ。今のところは首の皮も繋がってるよ。今はどこかの家に間借りさせてもらってる」
『ヘリの降下ポイントが決まったわ。街の南側、時計塔の前よ』
「それはまた、長い旅路になりそうだ」

窓から見える小さな時計塔のシルエットに、レオンは深く嘆息した。

『時間は少ないわ。とにかく急いで』
「それは勿論だが、ルート上のどこかにガンショップか何かないか?いい加減弾切れだ」
『……駄目ね。二件ヒットしたけど、どちらも進行方向とは真逆だわ』
「……泣けるぜ」

そう言いながらもレオンは涙も弱きも全く見せない。
通信機を切った彼は早速家の中を物色し始めた。
時間は一刻を争うが、今の装備ではとても目的地までは辿り付けそうにもない。

「………っ」

何か武器になる物はないかと物色を続けるレオン。
リビングらしき部屋に入った彼は、部屋の中央にあるテーブルを見て絶句した。

「……これはたまげた」

テーブルに近づき、その上に置かれていたアサルトライフルを手にとって驚嘆の声を漏らす。
それだけではなかった。先程の戦闘で使い果たしてしまったハンドガンの弾を始め、予備の弾丸がズラリと並んでいるではないか。

とてもこんな平凡な一軒家に置かれるような物ではない。
それにこのタイミングと言い、まるで自分の為に用意されたかのようである。
アサルトライフルの調子を確かめるレオンは、銃身に一枚の紙が括りつけられている事に気付いた。
紙を広げたレオンの顔に、驚きと同時に、微かな安堵の表情が浮かぶ。


――幸運を


鮮やかなキスマークと共に、その短い文字だけが綴られていた。
それでもレオンには、この素敵なプレゼントの贈り主が誰であるか悟るのには十分過ぎて。

「やれやれ。また助けられたな」

弾丸とは別に、綺麗に折り畳んだ紙をポケットにしまう。
誰もいない廃屋で、レオンは感謝の言葉を述べた。

「――ありがとう。エイダ」












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