バイオハザード | ナノ






朝一番、いつもと同じ様に職場に出勤したレオンは、そこでいつもと違う光景を目の当たりにした。

「あぁ、バレンタインか」

妙に抑制のない声で悟った彼の前には、無数に積まれた大小様々、色とりどりの贈り物の山。
それぞれの包みの表面には、これらの品々が合衆国機関によって安全だと証明された事を示す紙が貼ってあった。
ちらりと周囲に目を走らせれば血走った眼で睨み殺さんばかりのキツイ視線を向けて来る同僚達が見えた。
これ以上この贈り物の山々を人の目に晒すのは良くない。レオンは偶然持ち合わせていた空き袋に次々と贈り物を放り込んで行った。

「凄い数ね」

感心したようで、呆れたようにも聞こえる女性の声。
振り向けば癖っ毛が特徴の美女がレオン宛の贈り物の一つを手に取り、しげしげと眺めていた。

「ヘレナか。おはよう」
「おはようレオン。それにしても……噂には聞いてたけど、貴方モテるのね」
「皆そういう意味で送ってくれてる訳じゃないさ。ただお世話になってるってだけで。ほら、義理チョコってヤツだ」
「受付係のジュリアから。愛してるだって」
「………」

同封されていたメッセージを勝手に読み上げるヘレナからすぐに包みを引っ手繰り、袋の中に投げ込む。
それ以外の品に添えられたメッセージにも何やら怪しい文字が見えたり見えなかったりするが、レオンはそれら全てに無視を決め込んだ。

「これは義理チョコね」

またしても勝手に包みのメッセージを読んでいたヘレナが言った。

「はい。シェリーから」
「あぁ、ありがとう。……ん、クレアからも来てるな。去年はくれなかったのに」
「あっ、その青いのは私からのね」
「手作りか?」
「残念、市販の物よ」

それから暫くレオンは黙々とチョコの送り主を確認しては袋に入れる作業に没頭していた。
しかしある一つの包みを手にした時、ふいに作業の手が止まった。

「どうしたの?」

急激に変化したレオンの空気をヘレナが不思議に思って問いかける。
レオンが持っているのは他の物に比べて一回り小さな、紅い包み紙だった。表紙に蝶の模様が踊るそれは、何故かメッセージも、安全確認を知らせる紙も貼られていない。
暫しその包みを見つめた後、レオンはそれを他の品々と同じ様に袋の中に入れた。

「ねぇ。今のは誰からだったの?」

さては本命か、と女の好奇心に火を付けたヘレナが興味深々といった様子で問い質す。
返って来たレオンの声は、驚く程に静かなものだった。

「不明だ」
「え、」
「差出人不明。宛名も住所も、メッセージもない」
「……ちょっと、それ危ないんじゃないの?」

常にバイオテロ撲滅の為に最前線で戦うレオン。その命を狙う者は少なからず存在する。
中にはこんな華やかなイベントに紛れ策を仕掛けて来る無粋な輩もいるかもしれない。
怪訝そうに差出人不明の贈り物が入っている袋を睨むヘレナに、レオンは苦笑を浮かべ言った。

「大丈夫だよ。毎年届くんだ。決まって差出人不明で、紅い包み紙で、表紙に蝶が描かれたチョコが」
「毎年?」
「……まだ一度も、ホワイドデーにお返しを渡せてないんだがな」

そう言ったレオンの横顔はどこか哀愁が漂っていて……例えるなら、迷子の子どものようだった。
ヘレナはそんなレオンの顔に見覚えがある。そして何となく察してしまった。
毎年彼に名前も告げずチョコを贈る誰かを。

「……もどかしいと言うか、何と言うか」

その後、チョコを仕舞い終えて何事もなかったかのように仕事に取り組むレオンを見て、ヘレナは一人そう呟いた。











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